15 角力と化物むかし、村の鎮守さまさ化物巣くってだけと。そしてその化物が毎晩毎晩、夜中になっど出てきて、子どもをさらって行くってな。さらって行くにも番があるわけだま。今日はまず上(かみ)の端から、次の晩はその隣の家、その次はその隣の家と段々さらわっで、村に子供いなくなったってよ。その化物を何とかして退治したいもんだと思っているげんども、仲々退治する人もいないんだし、困っていたっけと。そしているとこさ、ある日の晩方になったとき角力とりが二人で来たってよ。 「区長の家どこだ」 と聞くと、 「そこだ」 と言うもんで、角力とり二人ァ行ったところが、晩方なもんだからみな忙がしくて、そこのおばぁさんが、 「おとっつぁま、いま畑さ働きに行ってていない」 「オレだは角力とりで、今夜一晩泊めてもらいたいと思って来たところだ」 と言うたどこ、 「おとっつぁま呼ばて来て、聞く他ない」 と年寄りぁ畑さ走って行ったとこだっけ。そして呼ばて来て話なったどこだっけと。そしたれば、 「こういうわけで、この村の鎮守さまさ化物巣くっていんな、その化物さえも退治して呉(くれ)っこんだら、泊め申すどこでない」 と、こういう話だな。 「化物退治だら、オラだ大好きだ」 そして、 「オレは磐石弥次郎というもんだ、こっちは岩張厳蔵というもんだ」 区長は化物退治大好きだというもんで、喜んで泊めた。まず寄って、お湯(風呂)さ入らせてもらって、お酒から御飯から御馳走になって、 「化物出るのは、夜中の十二時頃だから、それまで休んだ方がええ」 というもんだから、 「なじょな時間に出てくる?」 と言うたれば、 「夜中になっど、いかなる晩でも、ごうーと風吹いて来る。その風吹いて来たと思うと、パラパラパラと雨降ってきて、毎晩その通りで、その時間に化物が出て来て、子供さらって行くのだ」 そう聞かせたと。夜中になるのばっかり待ってさまざま化物退治の荷縄だとか、いろいろなもの準備して待ってたとこだ。その時間になったれば風吹いて来たんだと。そして雨がパラパラ降って来たと。そしたところが、何かドーンという音したどこだと。ソラッーと言うもんで行ってみたれば、化物は鎮守さまのエノミの木のところさ立ってたどこだと。そうすっど、まず、 「この化物、子どもら、さらって来て悪い奴だ」 と言うもんで、ぎりぎりと化物を縛ってしまったどこだ。化物は角力二人かがりで掛らっだもんだから、負けてしまったと。縛らっだがらみ、そいつズルズルと引張って裏の松の木さ繋いだどこだと。そして、とにかく化物退治したから安泰だというわけで、帰って来て明日の朝までぐっすり眠たと。 化物は松の木に繋がれて苦しがって「ウーン、ウーン」とうなったどこだと。その声の大きいこと、すばらしい声だったと。 「化物の畜生、オラだに縛らっで、苦しがって声立ててうなっていた」 「明日の朝げまでだら、大抵死んでいんべから、ゆっくり寝ろ」 というもんで、寝たわけだ。そして次の朝に暗いうち起きて行ってみたれば、化物いないと。なんだべと思ったら、その松の木もないと。松の木がらみ化物いなくなったわけだ。そしたれば、松の木を引っくら返して、ずうーと引ずった跡は溝(ほりこ)になってたと。その跡頼(たよ)って行って見たれば、その松の木背負ったまま、エノミの木のどこさ、ちゃんと立っていたと。 「この畜生、太っとい畜生だ」 とて、斧(まさかり)、持(たが)ってまた叩くべと思ったら、その化物、 「ちょっと待って呉(く)ろ」 「なんだ」と言うたらば、 「実は、オレは化物でない」 「化物でないごんだら何だ」 そしたらここの鎮守さまだったと。 「鎮守さまだら、なして子どもら毎日さらって来て食うごんだ」 「食ったのでない」 「なじょした」 そしたら、縁の下さ大きく穴掘って、そこさ子どもら皆入れて、生(い)かしておいっだけと。 「どういうために、そんなことした?」 「この通り見てけろ、ここの村ではずっと前まで毎年お祭りして、オレどこを大切にしてたげど、今ではこの通りお祭り一つして呉(く)んねし、草はぼうぼう、この仕末だから、オレはこらえ兼ねて、そして化物になって、子どもをつれて来て、ここさ仕舞ってたなだ。一人も死んだりなんかしないし、丈夫でいたから」 と言わっで、んだらばと縁の下さくぐって行って蓋を開けてみたらば、いやいっぱい居たも居たも。それから角力も、 「そういうわけならば、村にも悪いことあんなだから、よくこういうことないように教えて、お祭りもしてもらうし、邸も綺麗にしてもらうし、これから化物なて出ないように」 と約束して家さ帰って来て、その通り話したところ、村でも悪かったと言うて、それからは立派なお祭りして、その化物も出なくなったし、村も繁盛したと。 子育て地蔵の話は各地に見られるが、この話はその変形と考えてよい。伝説としては角力の登場が異色である。昔語りの「化物話」と同一視は出来ないが、ストーリーが角力によって組立てられている点は注目してよいだろう。 |
(大橋 川井遠江) |
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