14 魚(いさば)売り

 むかしあったけずまなぁ。
 背負い子の魚(いさば)売り来たところ、道に迷って、玉坂新道の方さ行ってしまったと。そうしたところが、何処まで行っても家ぁないもんだし、
「こりゃ、暗くなってしまったんだし、困ったもんだ」
 なんて居たところが、そこにポカリポカリと灯が見えて、家があったと。それからそこさ、何とも仕様ないんだし、まず、
「泊めておくやい」
 と言ったと。したれば年寄りばさま、囲炉裡さ火焚いて背中あぶりしったと。
「何にもないげんど、泊まるばりだらええから、泊まれ」
 仕方ないんだし、魚屋泊まったと。そして唯も泊っていらんねんだし、背負って来た魚をばさまさやったと。そしたら、ばさまは化物の本性あらわして、生で乾魚、ミイミイミイと皆食ったごんだと。気味悪(わ)れごんだとて、ばさまが食ってる間に、魚屋も天井上さ上って、ばさま一生懸命うまいうまいと食ってんのを見ったと。その次は何するごんだべと思って見っだと。ばさまは魚屋のもって来た魚、もっとないかと、一背負いみな食って、喉乾いたから、ドブロクでも呑むべと、ドブロク温めて呑んで、
「はてな、今夜は寒いから石の唐戸さ入って寝たらええんだか、木の唐戸さ入って寝たらええんだか、何処(ど)さ入って寝たらええんだか」
 と、一人言たっていたんだと。魚屋は天井さ上って、ばさまの言うのを聞いっだんだと。
「今日は冷えっから、木の唐戸さ入って寝んべ」
 と言って、ばさまは木の唐戸さ入って寝たと。ほんじゃ、しめたと思って、ばさま寝たとこ、魚屋上から降りて来て、まず錠かけたと。
「何すんだ(するんだ)こりゃ」
 とばさま、ええ調子で寝ったど。魚屋はお湯鍋さ、どんどんお湯わかして、錐で唐戸の蓋さキリキリキリと孔あけた。ばさまは中で、
「キイキイと言うぁ、キリキリ虫でも来たか、こりゃ」
 魚屋は蓋の上側さ孔あけて、煮たったお湯をどんどんと入っでやった。そうしたら、ばさま魂消て、
「助けて呉ろ、助けて呉ろ、悪いことしないから」
 と言うげんども、魚屋は、
「いや、貴様のようなもの生かして置くと、ろくなことしないから、殺してしまう」
 と、どんどん、かまわず煮湯かけて、化物は殺さっだと。とうびんと。

 一般には「鯖売り」と言われる話で、化物がドブロクを呑むときに、天井の魚屋が藁みごで呑んでしまったり、餅を焼いて居眠りする化物を見て、代わりに棒で餅を刺して天井で食ってしまう部分が欠けてしまっているが、よく整った話となっている。
(上野 高橋照太郎)
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