11 団子どのむかしあったけずまなぁ。じさまとばさまいたけずまな。じさまが庭掃くべと思ったら、団子一つ拾ったと。そしてその団子拾うべと思ったら、ころっと転んで行って、ネズミ孔さ入って行ったどこだと。そうすっど、さてさてと思って、じさまも後から、 「団子どの、団子どの、どこまでござる」 と言うと、 「仙台の深山の洞まで、洞まで」 と、ころころと転んで行ったずも。そうすっどじさまも孔ぽこの中さ入って行ったと。そして追かけっけんども、どこまで行ってもその団子さ追付かんねごんだも。 ずうっと、よっぽど行った頃、たいした大きな地蔵さま立ってござる。その地蔵さまさ、 「地蔵さま、地蔵さま、ここさ今団子転んで来なかったべか」 と聞いたところが、 「来たげんどもな、じさま。オレあんまり腹減ったので、その団子食ったごんだ。ほんでお前にええこと教えっから、オレ言うこと聞いて、オレの膝かぶさ上れ」 と言わっだと。と、 「いやいや、地蔵さまの膝の上さなど、もったいなくて上らんね」 「差支えないから上れ」 と言うもんだから、その地蔵さまの膝の上さ上ったど。そうしたところが、 「肩さ上れ」 「いやいや、膝の上ささえもやっと上ったもの、肩の上さなど、とても上らんね」 と言うげんども、 「かまうことないから上れ、上れ」 と地蔵さまに言わっで、肩の上さちょこんと、じさま上ったずも。そうしたところが、今度ぁ、 「頭の上さ上れ」 と言うずも。 「いやいや、頭の上さなど上ったらば、目つぶっでしまう」 と言うげんども、地蔵さまは、 「差支えないから上れ」 と、とうとう頭の上さ上ったずも。そうしたれば、地蔵さまの言うには、 「ここさ、晩げになると博奕うち、いっぱい来っから、博奕打ってたとき、鶏のまねしろ」 そして、 「一番トリ、二番トリ、三番トリが啼くと夜明けんなだから、三番トリ啼いたとき、銭も金もみなその侭して置き放しで逃げて行(い)んから、その金みなさらって家さ持って行け」 と言わっだと。そして地蔵さまの言わっだ通りに、じさま守っていたわけだごで。 暗くなっど、いっぱい来た。そっちからこっちからも赤鬼、青鬼、びっこ鬼などもいれば、さまざまな鬼がいっぱい来て、 「さぁさ、始めろ、始めろ」 と言うもんで、やっぱり毎晩なもんだから、銭金いっぱい出して博奕はじめた。そして一生懸命になって博奕打ってるとこさ、刻限見計らって、 「パタパタ、パタパタ、コケコー」 「あら一番トリだ、ぼやぼやしてっじど、夜明けっから、さ、せっせとせっせと」 銭などゾロゾロとそっちにもこっちにもいっぱい出して、たいした大博奕になったことだと。そうしている内にまた二番トリ、 「パタパタ、パタパタ、コケコー」 「ほら、二番トリだ。三番トリ啼くと夜明けっからな、早くありだけの銭みな出せ」 そうして一生懸命になって銭みな出して、ええ博奕になったわけだ。そうしていたところぁ、また三番トリになった。それぁ三番トリだというわけで、そこさありだけ出しった銭かまねで、みな逃げて行ったずま。その後に、地蔵さま、 「じさま、じさま、今だぞ。早くその金拾って、家さ帰れ」 と言わっで、地蔵さまにみなもらって、大変喜んで、カマスに入れて背負って来たど。 そしたところが、ばさま一人ばり留守番してで泊りぶって来ねもんだから、 「なえだ、じさま、今帰ったどこか。何処さ行ってきた、一晩泊って」 「いやいや、こういうわけだ、ばさま」 「あらら、ほんじゃええがったな。ほんじゃ、オラだ金持だぜはぁ」 とて、大変に喜んでいたとこさ、隣のばさま火貰いに来たもんだ。 「おしょうしだげんど、火の種一つ呉(く)っでおくらせ」 と来たので、そこのばさまは大変にやさしく、火の種呉れてやったと。そうすっど、隣のばさまは欲たかりばさまで、そのカマスさ入った銭、さすがに目についた。そして、 「なえだまず、こっちの家さ、ほがえにカマスさ入れる程に銭あんのか」 「ほだ」 「なじょして、こがえに銭もうけたこ」 「オラ家のじさま、こういう訳だった」 と昨日(きんな)あったことみな語って聞かせたと。そしたれば、その隣のばさま、 「あらら、そんがえなことで銭もうけたごんだらオラ家のじさまも寝せておかんね。んじゃ、そういう風にして団子拵えて、銭もうけらんなね」 とて、火貰って行ったと。そして寝ったじさまのとこを、 「なえだじさま、まだ寝ったことか、隣の家さ火貰いに行ってみたところが、大したもんだ。隣の家なの、銭と金、カマスさ入れて一つあっけぜ」 「なじょしたことだ」 「こういう訳であったと」 「ほだれば、早く団子拵え」 とて、じさまとばさまぁ一生懸命になって団子拵えて、そのネズミ孔さ入れてやったと。ほだげんどその団子大きいから仲々転んで行かなかったど。棒もって押して行ったれば、地蔵さま、やっぱり立ってござったけど。ほして、 「地蔵さま、地蔵さま、ここさ団子転んで来ねがったか」 「転んで来ねがったな。知らね。オレ見つけねがったま」 「見つけねざ、あんめえちゃえ、見つけたに相違ない。この地蔵、嘘つかして」 「見つけね」 そうすっど、この地蔵、嘘語り地蔵というもんで、地蔵さまささんざん悪態して、上れとも言わんねに、ちょこんと頭の上さ上っていたど。 そんげなこと知らねから、博奕うち、また来たずも。そして昨夜(ゆんべな)の通りに博奕打ち始めたと。じさま早く金欲しいもんだから、刻(とき)でもないのに、鶏啼いたずま。 「なんだ、今夜の鶏早いな」 「ええから、まず一番トリだから大丈夫だ」 そして二番トリ。 「ほら二番トリだ」 といる間に三番トリ啼いたわけだも、ほれ。 「こりゃ大変だ」 というもんで、金も置きっ放しに逃げて行ったげんども、びっこな鬼は足遅いもんだから、遅っだずも。そうすっど、 「ええ、野郎べら、オレに鶏のまねされて、みな銭も金も置いて逃げて行った。それぁみなオレのもんだ」 と言った。じさまはさらい始めた。そうすっど、びっこの鬼ぁ聞きつけて、 「なんだ、人のような音したな、ふんふん」 と嗅(か)いでみてると、 「やっぱり人間の匂いする、まずみんなもどれもどれ」 と言うもんだから、 「何かあったか」 「いや、人いた、此処さ」 そして探し(たね)てみたれば、じさまが恐っかながって、その銭さのだばって(這いつくばって)ふるふるふるえていたけど。 「このじさまだな、昨夜(ゆんべな)も金とってって、今日も金とっどこだったな、おえない盗人じさまだ、こげなじさま縛れ」 「いや、オレでない、昨夜(ゆんべな)盗って行ったな隣のじさまだ」 と言うげんども、博奕打ちは何というても何も聞かねで、隣のじさまのどこをぎりぎりと縄で縛って、川の中さぼんとぶっ込んでやったと。そうすっどじさまも困って、そっちゃこっちゃ流れてぶっつかるもんだから、とうとう柳の切株ひっつかまえて、そこから上って、だらだらという恰好(なり)して、ふるえふるえ、泣き泣き家さ帰って行ったずも。 家に待ってたばさま、 「なえだて、オラ家のじさま遅いもんだ」 と見ったずも。じさま泣き泣き、だらだらというなりして家さ帰って来たっけど。 「なえだ」 「なえだもかえだもない、オレばりひどい目に会った、うんうんうん」 と泣くごんだも。そして「なにしたごんだ」と聞くと、「こういう訳だ」と言うたど。 「んだから、そがえに急がねでいると、ええなよ。早く銭もらいたいもんだから、いそいだから、そんがえな目に会ったのよ」 人のまねざぁ、んだからするもんでないど。とうびんと。 置賜の代表的な昔話が、こんなニュアンスのある話し方で語られるのは興味がある。赤湯町で聞いた昔話の中で、最も原型に近い昔話の一つである。「団子浄土」と一般に言われるが「団子どの」といった方が通りのよい話である。 |
(大橋 川井遠江) |
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