10 なら梨とり(一)

 むかしあったけずまなぁ。
 ばっちゃに太郎と次郎と三太郎という兄弟いたったど。そしてばっちゃ、塩梅わるくて寝ったとき、
「何か食いたいものないか」
 と、孫ども聞いたと。そうすっど、ばっちゃは、
「何も食いたくないんだげんど、なら梨なら食ってみたい」
 と言ったと。そうすっど、孫の一番大きい太郎は、梨とりに行ったと。
 そして行ったら、年寄りの鬼婆がいだっけと。
「ばさま、ばさま、ここらになら梨実(な)ってたどこ知らねが」
 と聞いたと。婆は、
「知ってだ」
「どこだ」
「この山のかげの山のかげの、七曲がり上って行くとなってたそ」
「ほんじゃ、行ってもいで来らんなね」
 そうしたれば、鬼婆は、
「いいか、太郎、いまに行って、にさ(お前)どこ呑むぞ」
 と言うごんだと、気味わるいにも、まず婆っちゃせっかく食いたいがっているなだから、食(か)せんべと思って、かまわず行ったと。そしたらやっぱり、なら梨の木あって、そこさ登って、
「早く持って行って食せんべ」
 とて、本気でもいんだと。そうしたれば、その鬼婆来たごんだ。
「ほら、野郎、にさどこ呑んでけんぞ」
 というもんで来たから、これぁおっかないと思って、木の上まで登って逃げたげんども、下から鬼婆、木に登って来て、太郎はツルッと呑まったと。
 そして、今度は、太郎が家さ帰って来ないもんだから、次郎は、
「なんで兄(あんにゃ)、まだ帰って来ない。オレが今度行ってみる」
 と行ったと。そしてそいつもその通りで、鬼婆に聞いてそこさ行って、もいだば、ツルッと呑まっだと。
 こんどは三太郎。
「化物にでも会ったかもしんねえから、一つ脇差もって…」
 と、行ったれば、また鬼婆いたと。三太郎は七曲り登って行って、なら梨の木さ登ってもいでいたら、鬼婆出てきたと。
「この婆ァに二人呑まったんだな」
 と用心して、木さ上ってもいっだところが、木の上の方に逃げないで、わらわらと降りて来たと。そして脇差抜いたところが、婆ァ魂消たと。
「婆ァ、オレの兄貴二人呑んだべ」
 と言うもんで、脇差つきつけて、せめたもんだ。そうすっど、鬼婆もかなわねもんだから、
「いや、悪かったげんど、にさの兄(あんにゃ)、みな呑んでしまった」
「ほんじゃら、呑んだの出せ」
 そうすっど、鬼婆は「アーア…」と呑んでた、次郎兄を出したと。
「もう一人出せ」
「アーア…」と出したと。
「生かして置かんね」
 と、三太郎は鬼婆の首をスポーンともいで、兄二人を助けて、なら梨いっぱいもいで来て、家のばんちゃさ食せたと。
 そうしたれば、ばんちゃ、じきに病気よくなったけど。とうびんと。
(上野 高橋照太郎)
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