48  糖福と米福 

 むかしあったけど。
 糠福ざぁ、おっかに死なっで、姉さは糠福、米福ざぁ妹なんだ。そして糠福ざぁ正直な…。やっぱり米福だたて、決して不正直なものではない、正直な立派な、二人はええ子な者(もん)であったげんども、親に早く別っじゃんだから、まいどは「継(まま)母のようだ」て、今とも違ってなぁ、何すんにも隔てつけだもんだ。
「今日は風吹くし、二人で栗拾いに行って来い」
 なんて言わっで、そして二人は栗拾いに行ったら、昼飯持(たが)って行ったげんども、昼飯になんねうちに、米福などはぁ、今のおっかの子どもだから、ええ袋あずけらっで行ったから、一つになったわけだ。んだげんども糠福はやっぱり古い袋の穴のあいたな持(たが)かせらっじゃから、なんぼ拾っても溜んねわけだ。こう結ってなど見っけんども、栗ぁ重いから解けては落ち、解けては落ちして、
「おれぁ、まだ一つになんねから、お前一つになったら家さ帰れ。一つになんねでお前より少し拾って行くじど、おっかさんにまた叱られるから、お前ばり行け」
 て、一人で残って、妹をやったわけだ。そして昼飯にもなったし、まず御飯食べたいと思って、昼飯食べて、暑かった時であったべな、木の根っこ枕にして、眠ったどこだっけな。眠ったら、初手(しょでん)のおっかさが出はってきて、夢だかうつつだか出はってきて、
「お前、あんまり難儀してっから、おれ、かげながら打出の小槌ていうの持ってだから、これ呉れっから、衣裳出ろとか金出ろとか、欲しいときぁ、これコンと叩くど何でも出っから、これ呉れっから、なんぼほど切ないときぁ、これ叩いてみろ」
 て言わっで、ちょいっと目覚ましてみたらば、本当に、それそこにあったけどなぁ。
「いやいや、おれぁ夢だと思ってあった。本当のごんだな。本のおっかさんに行き会ったった」
 て思って、頂いて、「袋ぁ出ろ」て言うたら、ちゃんと袋は出たちゅうんだ。そして袋さ一生懸命になって拾ってはぁ、一つになったし、家さもどって来たらおっかさんに、
「それ、そんなええ袋、どっから持ってきた」
 て、こんど言われるわけだ。
「拾って来たり、人の家から盗んで来たらなんねぇぞ」
「いや、そんな事でないげんど、おれ、端切れ継ぎ仕舞ってだなて縫って、そして穴の開いっだどこ、くけたのだ」
 て言うどこだけな。そして何にも継母だからええぐなど解釈しねで、悪く悪くと取られるわけだでそ。そしてある時お祭りあって、お祭りさみんな行くて言うから、「歩(あ)えべ」て友だち衆ぁ、お祭りさ呼ばりに来たどこだけな。そしたら、
「米福、新(あら)衣裳出して呉れっから行ってこい」
 て、おっかに着物みな整えてもらってお祭りさ行(い)んけんども、糠福は着物も持たねから行かんねわけだ。そして、
「糠福、お前も歩(あ)えべ、おもしゃい、今日、大した芝居も掛ってたという、おもしゃいぜ」
 て言うたれば、
「んだげんど、着物も、おれ、禄なもの持たねぇし、米搗きしろて言わっじゃんだから、米も搗かんなね。おれ行かんね」
 て言うたどこだっけ。そしたら友だち衆ぁ、
「米など、おらだ搗いで助(す)けっから、みんなですっど雑作ないから、みんな行くどさ行がねど面白くないから、あえべ」
 て誘われっどこだど。
「そんなこと言わっじゃて」
 て、あんまりみんなに親切に言わっで、言葉にあまえて糠福も、
「打出の小槌もらってだな、こういう時、これ叩いたら着物も出んべから」
 て思って、そして言葉に甘えて、
「ほんじゃ、みんなそんがえ助けて呉れっこんでは、手伝ってもらって、おれも行ってみっか」
 て、そして米搗けて言うだけ搗いて、陰さ行って、打出の小槌もらったな叩いたら、ぞっくり着物も出たんだから、ちゃんと仕度して、みんなと一緒に、出はったわけだ。そしてお祭りさおっかと米福は先に行ったんだし、やっぱり着物持たねから、着せねと思っていたとき、おっかお祭りさ行ってだ時見つけたわけだ。
 そして、
「おっかさ、より一足先にもどっていねじど、勘定わるい」
 て思って、先に来ったんだげんど、お母さ戻って来て、
「お前、なじょして衣裳など、あがえにええ衣裳着て、お祭りさ行ったごんだ」
 て、こんど叱られるわけだ。
「友だち衆に着物も貸すし、米も搗いて助(す)けっから、あえべて言わっで、薦めらっで言葉に甘えて、みんな行んからて、親切に言うて呉れるもんだし、行って来た」  て言うたところだけ。そしたら、
「ほんじゃ、ええげんども、そんがえに着物なんか借っだりして唯ものでないんだから、このたびは仕方あんまいげんども、衣裳貸せの足袋貸せのて、いらんねんだから」
て、おっかさ言われっどこだ。「はい」て何でもおっかさの言うこと「はいはい」て聞いっだどこだな。そしてこんどぁ、やっぱり話じゃ早いもんで、継母にせめらっでるていうこと聞いて、大そう貞心のええ娘だという話きいて、ええどっからもらいに来て、嫁に欲しいて仲人ぁ来たわけだ。そしたとき、おっかさは、
「糠福のごんであんまぇ、米福でないか、欲しいて来たな。糠福など衣裳も持たねもの、嫁なの行かれめちゃえ」
なて、おっかさんが言うわけだ。
「いやいや、米福でない、糠福欲しい」
 て言うごんだから、聞き間違えないで来たて仲人が言う。
「何も持たない裸だげんど、そんでもよから連(せ)でって呉ろ」
 どかて、おっかさが言うんで、いよいよ糠福は結婚式上げっどこだけな。したら打出の小槌、おっかにもらってだなだから、仕度限り、みな整えてはぁ、やっぱり篭かき衆ぁ来て、やっぱり嫁になったんだな。
 そして継母なもんだから、けなりぐなったんだな。そして米福ばり残ったもんだから、それけなりと思ったんだな。
「お前も、姉は行っても、嫁にならんねんだから、篭さのらんねんだから、肥ひきゾリさでものせてみっから、のってみろ」
 なて、肥ひきゾリさのせて、池のぐるり引張ったれば、種池(たんなげ)さ落して、雪のあっどきだかなんだか、娘殺してしまったど。
「あんまり継母だと思って、初手(しょでん)のおっかさの子どもいびって、罰当ったんだ」
 なて、本当に気味ええがった。んだげんど、米福もむぞさいしたなぁ。むかしどーびん。
(後藤とよ)
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