35 魚女房 

 ある、ここのようなとこに、一軒屋があったけど。そこにおかたも持たねで、一人ぼっちで暮している人があったど。
 そしてその人が大きな鱒とって来たけど、子どもがよ…、その鱒とって、来たな、 「お前だ、お前だ、そがえな雑魚とって、そして殺して、むごさいごんだから、殺さねで。おれ、銭呉っから、おれにその、売って呉ろ」
 てな、そして子どものごんだから、「あまりええ」て、そして銭やって、雑魚鱒もらって、
「お前なぁ、殺されっどこだけぜはぁ、子ども衆に。早くこの川さ入って泳いで行けよ」
 て、ザブンと川さ投げ込んだってなぁ。そうすっど、鱒は喜んではぁ、ヨナヨナ、ヨナヨナと行ったってよ。そして家さと帰ってきて、一人ぼっちなもんだから毎日稼ぎに行って来てはぁ、一人で飯(まま)炊いて食ってな、いたところが、ある日、きれいな娘が来たけど。
「おれ、道に迷ってはぁ、こげなとこさ来てしまったどこだ」
 て来たけど。そして、
「泊めておくやい、今夜一晩泊めておくやい」
「あまりええげんど、おれ一人ぼっちだで、おれ一人子だぜ、泊んなのええげんども、ええか」
「あまりええ、なんとも仕様ないから、暗くなって行かんねから泊めておくやい」  て。そしたばきれいな娘、泊めて、次の日になったげんども行かね、帰って行かねで、そして御飯を炊いて呉(く)っでよ、きれいに家の中を掃除してはぁ、そして次の日になっど、帰んねでまたその次の日になっても、まだ帰んね。そして御飯を炊いて、うまいお汁(つけ)など煮て、ちゃんと待ちてで呉っで、泊ってで呉れるもんだから、
「お前行くんだ」
 ても言わんねんだからな、かまわず泊めておいた。そして、
「何だて、奇態なもんだな、こりゃ、何とかして見はらかして呉んなね」
 て思ってよ。そしてある日、仕事から早い加減に帰ってきて、まず家の後さ隠っで、夕方、御飯炊きすっどき、そっと覗って見っだど。そしたれば鱒になって、お汁(つけ)、カエロカエロ、カエロカエロとすって、お汁鍋さ鱒になって入って、身成りをきれいにコチョコチョと洗って、そして上がって、また着物きてちゃんとした。そして鱒入ってしたから、お汁がうまいんだべ。そして、
「はぁ、これぁなぁ、鱒であった。先度おれぁ、子どもから買って放したけなぁ、助けたけぁ、あの鱒だな」
 て思って、そしてまず、親父さま黙って飯食っていだけぁ、次の日になったれば、「おれ、見つけらっじゃなぁ」
 て思ってな、胸の仏が知れたか、暇乞いして行ったって。
「永々お世話になって、おしょうしでござり申した」
 て、帰って行ったど。んだから何でも殺さないで、助けるもんだ。お前もそういう風にしなねぞな。むかしとーびったり。
(佃 すゑ)
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