30 猿聟 

 三人娘持ってで、前千刈、後千刈の大きな百姓だげんども、水掛んねで困ってだどこな、それさ、猿、
「そんな簡単なことない、おれぁこの娘呉れっこんだらば、おれ、一晩に水掛けて呉れる」
 て言うたど。そして、
「ええどこでない。娘などどれでもええから呉れっから、水掛けて呉ろ」
 て言うたら、次の朝げ、後前全部水かかってる。そうすっど猿が迎えに来たわけだ。そん時のごんだべ。そうしたら困ったじいさんが、朝げ起きないど。
「なんだ、じいさん、御飯だから起きろ」て。
「こういうごんだ。お前、猿の嫁になって行ってくれっか」
 て言うたらば、
「そんなこと嫌だ」
 て。こんど二番目な起しに来たから、そう言うたら、それも嫌(や)んだて言うんだし、
「いま一人では困ったごんだ」
 て思っていたらば、
「あまりええ、おれぁ行んから、ほがえにがっかりしていねで、おじいちゃん起きて御飯食べろ」
 て言うたど。そして喜んで、猿の嫁になって猿と一緒に行ったどこだど。そして嫁に行って里帰りに、向うに餅搗いておじいさんどこに持ってくるごんだべ。そしたら、
「何さ、どんなことして持って行ったらええ」
 て言うたらば、
「そんなものさ入れっど、重箱さ入れれば、それ嫌いだし、こういう風にしても嫌いだ」
 そうすっど、困り果てて、
「ほんでは、臼がらみ背負わんなね」
 どっこい、こんな大きな臼がらみ背負ったわけだ。そしておじいさんどこさ、背負ってきて、途中で考えたには、娘が、
「川端にきれいな藤の花が下がっていたから、あれ欲しいなぁ」
 て言うたら、
「それ、ほんじゃまず、ここさ降ろして、藤の花取って呉(け)っから、待ってろ」  て、こういうわけだどな、猿が…。
「いやいや、それ降さんね、それおろすど土くさくて食んねて言うぞ」
 て言うわけだ。んだから、そうすっど仕方なしに猿が背負ったまんま、猿のごんだから登って行った。そして「これ、ええか」ていうど「いやいや、その向うんな、その上の、こう下がったなええ」て、その上だの、そして行くど、
「その下ったどこのええ、それ取って呉ろ」
 て言うたべ。そうすっどよくよくのあれなもんだから、木が折れて、なんぼ藤だってな、それに重いんだし、ドッタリと川さ落ちたど。
 娘は、そしてじいさんどこさ逃げて行ったど。そしてじいさんに褒めらっだけど。とーびんびったり。
(男鹿 秀)
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