16 三枚のお札ある寺に、小僧がいでやったど。そしてお盆になって、「村の衆、五六人とお前も行って、桔梗とコガネ取って来いよ」 「はい」 「それなら、万一のことあるから、お前に尊(と)とさい札を三枚やるから、これ持って、いざ困ったと思うとき、何でもお前の出したいもの、口で言えば必ず出るから、これ尊(と)とさい札三枚呉れっから、これを放さないで持って行げよ」 て、こう言わっで、みんな友だちと、野くれ山くれと桔梗取りに行ったら、だんだん山奥、山奥と、足まかせて行ったら、もう友だちにはぐれてはぁ、とんでもないどこさ行ってしまって、さぁ大変だと思ったら、日も落ちて暗くなった。さぁ大変だ。お寺に戻らんない。今夜どこさか泊るほかない。どっか明るいどこないかなぁと思っていたら、向うの方に、ポカリポカリ灯(あかし)がある。はてはてあそこに灯あっから、あそこさ行って宿を頼む他ないべなと思って、だんだん行ったら、一軒の小屋ある。 「今晩は、今晩は」 て言うたら、「誰(だん)じゃ」。 「こういうことで、花採りに来てあったげんど、友だちと離れてはぁ、お寺さ帰るようなくなったから、今夜一晩げ泊めておくやれ」 「んじゃら、入れ。泊めてやるから」 そして御飯を御馳走になったら、 「小僧、おれに抱かって寝ろ」「はい」て、抱かっで寝て、だんだんおばぁさんのどこ撫でてみたらば、毛むくちゃらな…。 「はて、これは鬼婆かな」 て思ったら、身振いして、 「さぁ大変だ、鬼に食わっじゃ大変だ。これは逃げる他ない。ばばちゃ、ばばちゃ」「なんだ」 「おしっこが出る。ウンコぁ出てきた」 「ほんじゃら行ってこい、にしゃは気ぁついたでないか、にしゃは逃げっど悪いから、細紐つけてやる」 腰紐、ぎちっとつけらっで、腰紐持(たが)って便所さ行って、便所の柱さ紐ぎちっと結つけて、「小僧出たか」「はい、まだ」「小僧出たか」「はい、まだ」「小僧」「まだ」「まだか」て、鬼は引っぱったらば、柱からみ抜けて行った。 「さぁ、小僧ぁ逃げた、あのうまそうな小僧、逃がしてはいらんね」 どんどん、どんどん追かけて来て、小僧、いま一つかみで抑えられそうになった。さぁ大変だ。ああ和尚さまにもらった、あの尊(と)とさい札、 「よし、バラ薮(やら)出ろ」 て、うしろさ投げてやったどこ、そうしたら大バラ薮(やら)出た。 「こんなもの出たて何のその、負けていられるもんでない」 こう漕(こ)ぎ上がって行くと、また小僧は一生懸命になって跳ねて行くと、また追かけてくる。こんどは後見て、札持って、 「大川出ろ」 て投げたれば、どんどん、どんどんという大川出る。 「こげな川に恐れていない」 ガホガホ、ガホガホて、みな漕いでまた追いつきそうになったど。さぁ大変だと思って、「火の山出ろ」て、うしろさ投げたれば、どんどん、どんどん火の山出る。火くぐって、火の山くぐって行くうちに、和尚さまさ行ったどこよ。寺さやっと行って、 「和尚さま、和尚さま、早く門あけて呉ろ、和尚さま」 そうすっど、和尚さま、ゆっくり、 「まず、起きて…」「早く早く」「…衣を着て」「大変だ、和尚さま、和尚さま」「まず、足袋をはいて」「早く早く、鬼ぁ来る」「ようし、まず門を開けてやる」 ようやく開けてもらって、 「ほら、ここにヨモギと菖蒲あっから、この中さ隠っでろ」 菖蒲とヨモギの中さ隠っでいたそうだ。鬼ぁ来て、小僧取って食うべと思って、 「さてさて、くやしい。残念だ」ヨモギと菖蒲というものは、五月にそのために立てるもんだど。とーぴったり |
(山口ふみ) |
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