12 古屋の漏れ 

 むかしあったけど。
 ここのようなどこに、じじとばばいだっけど。じじとばば二人っきりで、大きな家さ入っていたど。
 そして、夜、その寝話に、
「この山の中に何にも恐(お)っかないものはないげんども、古屋の漏一番恐っかない」
 と、そう言って寝話しったけど。そうすっど、山の中から狼降(お)ちてきて、何にも食うものがないもんだから、家さ入って一噛みにしてくれましょうと思って、入ってきて、そして軒場で聞いっだれば、寝話に聞くじど、
「世の中には、何にも恐っかないものないげんども、古屋の漏ぁ、一番恐っかない」  て、話しったど。そしてその狼ぁ聞いて、
「おれは、山の中におれほど恐ろしいものないと思っていたげんども、おれより恐ろしいもの居たかなぁ」
 て聞いだって、
「古屋の漏て、なじょなもんだべ」
 て聞いたで。そして恐っかなくて逃げて行ったて。そして、
「世の中には、おれより恐っかないものいるもんだから」
 尻かえちゃにして、逃げてしまったけど。とーびったり。
(鈴木ひろ)
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