87 南の山の馬鹿聟・数の子

 むかしあったけど。
 南の山の馬鹿聟ぁ、嫁もらって、嫁の家さ三つ目ていうな、招ばっで行ったど。御馳走に数の子豆ぁ出た。いや、その数の子のうまいこと、うまいこと、
「いまと食(く)だいもんだ」
 て、寝てから嫁に、「数の子、よっぽどうまいもんだけ、いまと食(く)だいげんどもな」て言うたら、嫁、
「あの、流しの方にあっから、カメさ入ったから食(く)え」
 て言わっで、そして行って食った。いやうまくてうまくて一生懸命食ってるうちにはぁ、頭突込んで食ったれば、カメ頭さ喰付いて取んなぐなった。そしてずうっとカメかぶりで、ずっと手さぐりで歩くうちにはぁ、その、便所さ落ちでったど。そしてこんど、そこさ誰か便所さ来た音すっど思ったば、石で尻のごってボーンと投げっじど、カメ割っではぁ、出はって来て、そして身(な)成(り)洗って、そして御馳走、祝いことでもあったべな。祝いこと始まっど、こんどは謡い出て、「みぎわのツルカメは…」なて言うたれば、自分がカメのこと言わっじゃがなと思って、
「石で尻のごった、石で尻のごった」
 て、馬鹿聟は言うたけど。
(大石きみよ)
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