86 南の山の馬鹿聟・馬の尻に札

 三つ目に、嫁の実家さ行ったけど。
「見ておくやい、こっち普請したとこだ。こげな床の間拵えたどこだから、見ておくやい」
 て言わっで、そして行ってずっと見て立派な柱だけて言うげんども、ちょっと節穴あったけど。こんど、
「節穴ここにあったのよ、まず。ほれ、気ぁ付かねがったのよ」
 て言うたば、
「いやいや、こげなもの差支えない。柱かくしていうものあるもんだから、柱かくし掛けっど、さっぱり見えねから、差支えないから」
 て言うごんだど。そう言うもんだで言わっで行ってなぁ。そしてはぁ。
「馬鹿て言うこと聞いっだけぁ、馬鹿でなどないもんだなぁ」
 て言うもんでよ。父ちゃんは喜んで、
「おらえに、こういう馬飼ってあんのよ、馬を戸の口さ行って、おらえの馬見て呉ろ」
 馬見て、
「ええなあ、ええ馬だな、ほだなぁ」
 て、尻尾など引立てて見てるうちになぁ、尻の穴あったじも。
「ここにも節穴あっこんだ。柱かくし掛ければ差支えないから」
 て言うたど。
「いやいや、こりゃ、やっぱりなぁ」
 て、親父さま、そこであきらめて仕方ないと思って、
「こげな男に娘呉っででも仕様ないから、取っかえすほかあんまえ」
 と思って、そしてはぁ、取っかえしたど。
(佃 すゑ)
>>中津川昔話集(下) 目次へ