79 尻鳴り扇むかしあるところに、一人で暮してる、悲しがり、神さまさ行って願かけたそうだ。「稼がないで、お金もうけをして暮すようにしておくやい」て。そしたら神さま、夜眠(ねぶ)っていたときに夢枕に立って、 「お前は稼がないでもうけしたいて言う、おれ、かなわせてやる。この御(お)み坂さ降るとき、扇あっからその扇を拾って帰って行って、その扇をひろげてあおぐとあるとこの嫁さまのお尻が鳴るから、そいつを治すと触れて行くしど、そうすっどもらえっから、長者の娘だからお金をたんともらって来られっから…」 て言わっで、それから、まず大きな町さ行って、家の大きなあるどころを、扇を持(たが)ってあおったそうだ。そうすっど屁が、歩くじどピッピッ、ピッピッと鳴る。 そうすっど親たちが困って、あっちの医者こっちの医者さ頼んで見てもらったげんど、とても医者は治さんね、そうすっど、こんどぁずうっと向うから、「女、尻なり止め」ていう触れ出して行ったずも。そうすっど、 「女、尻なり止めというお医者さま来た、早く頼んで見てもらえ」 そしてまず頼まっで、 「おらどこの娘、歩きさえすっどお尻が鳴る。 ビクツク ビクツク チョウコウジ チョウラクジ キョミズビッタリ チョウジャモチ て、歩くと鳴る」 そうすっどこんど座敷のどこさ行って、そこらさすってでも見たべちゃなぁ、そしたら、 「こういうとこに、何か音立てるものある、そいつを治さねじと分んない」 そうすっど、扇をこっちさ逆にあおっこんだけど。そしたら止まるって、そういうあんばいにしたら、止まったわけだ。 「さぁ、こんどぁ治ったようだから、歩ってみてくろ」 そして歩ってみたら、やっぱり音立てなくなったど。これは名医者だということになったど。また、よっぽどお金のなくなった頃になっど、扇持って、お金持ちの前を通り通りしたどな、そうすっどやっぱりそういうあんばいに娘のお尻を鳴っからって、 「尻とめの名医者だ」 て言うもんで、止め止めした。稼がねで一生食(か)れっこと教えらっじゃど。とーびったり。 |
(男鹿てつの) |
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