75 和尚と小僧・フクデ餅

 これもお小僧さんで、和尚さまと小僧いで、フクデ餅なぁ、そいつを焼いて、小僧、出はった留守に食べたいげんど、いつでも小僧ぁいるから、食べらんねくて、あるとき山鳥追いてしたもんだ。冬、吹きのうんと吹くときだど、鳥ぁとばない、そいつ追い出して、大きな洞(あぷら)に入ったな、そいつ取って来たもんだ。ここらでも。
「みんな山鳥追いしったから、小僧も行って追ってこい」「はい」
 ほうして、出はって行ったな、
「いつでも、おれ留守なとき、和尚さま御馳走拵って食ってっから…」
 裏からそっと寄って二階さ上がって見っだど。そうすっど和尚さま、いっぱいフクデ餅を焼いて、ふぐっで、大概食べる頃になったら、小僧、そうと二階から降ちて来て、
「いやいや、和尚さま、今日の山鳥追い、騒いだばりで取らんねがった、帰ってきた」
 そうすっど、
「いや調子悪がった」
 て、和尚さま、やしゃないから小僧出らっで、みな灰(あく)の中さ埋(い)けたそうだ。フクデ餅。
「まず始まりには、ここの山から、こう飛んでなぁ、和尚さま。ここでこう止った」
 そしたらば、フクデのあっどこさ、火箸刺った。和尚さま、
「いやいや、ここさフクデが焼かっていだ。われ、腹減って帰って来っかと思って、われに食せっかと思って焙ぶって、しまって置いたんだ」
「ありがとう」
 フクデ一つ。
「またそっから、こう飛んで、ずっと行くと、ここの洞(ほら)さ行って入った」
 て言うど、そこにもまたフクデあったど。
「いやいや、ここにもある。われ腹減って来んべと思って、たくさん焙って埋けてたんだ。んじゃ、お前に上げっから」
「おしょうし」
 そしてまた、
「ずうっとここら飛んで、向うさ追わっで行った。こういうところのアプラさ入った」
 そこにもまたフクデあった。
「いやいや、和尚ありがとう」
 て、小僧にみなフクデ食べらっでしまったど。
(男鹿てつの)
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