71 脂とり

 ここのようなどこに、稼ぐ嫌いな息子がいたけど。稼ぐきらいで、そしてその神さまさ願かけたけど。
「稼がないで、うまいもの食って暮される方法ないべか」
 て、その神さまさ行って拝んではぁ、そしているうちに、その神さまの縁鼻さ眠ったそうだ。そうすっどその神さまは教えておくやった。
「ここの、ずうっと裏道行ってみろ、そうすっじど、稼がないでうまいもの食せて呉れる家あっから、ここずうっと行ってみろ」
 と、その、トロトロと眠っど、神さまに教えられ申したど。そしてポイッと目覚めてみたところが、縁鼻さ眠ってだけど。そして行って見たど。そうすっど、
「教えらっじゃから、行ってみっかな」
 と、その道だんだんと行ってみたれば、なるほど大きな家あるけど。そしてそこさ入って行って、
「今夜、泊めておくやい」
 て言うたれば、
「あまりええから、泊っておくやい」
 いや、うまいもの食せておくやって、唯何だじもなく、うまいもの三度に三度うまいものなぁ、
「これはええことなもんだ」
 と思って、二日三日経ったそうだ。そして、ほら、退屈になったもんだから、ずっと裏さ出はって少し行ってみたど。そして見たところが、この裏に長く大きく建物あったどな。
「何だべなぁ」
 と思って、その傍さ行ってみたところが、
「助けて呉ろ、助けて呉ろ、あついあつい、助けて呉ろ、助けて呉ろ」
 なて音すっじも。
「あらら、異(い)な音するもんだな、これ…」
 と思って、そこさ行って、そっと覗って見たところが倒さにさっで、下さ金(かな)もの置いて、下からボンボン、ボンボンとあつく火燃やしてはぁ、さんざんうまいもの食った人を、倒さに吊るして、人脂とりだけど。そうすっどその人、
「さぁ、大変だ、こげなどこにいられるもんでない、おれぁうまいもの、うまいもの食せらっで、こうして人脂とりされんなであった。こんなところに居られるもんでない」
 と思って、まず逃げんべと思って見たところが、逃げらんねがったど。ずうっと塀廻さっでいたけど。んだげんども、その人が何とか逃げた。
 んだからそんなずるい気をして、稼がないでうまいもの食(く)だいもんだなて神さまに願かけだたて分んねどな。んだから決してそういうことするもんでないど。一生懸命に稼がんなねからな…。むかしとーびったり。
(佃 すゑ)
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