69 笠地蔵むかしあったけど。あるところに、じっちゃとばっちゃがいて、二人でその笠を縫って暮していたど。 二人ぁ。そしたらお正月ぁ来て、買物に行ってくると、笠を背負って行ったそうだ。そしたら六地蔵さまの道を通るとき、お正月近くだから、ミゾレぁ降って、寒いお天気であったそうだ。 「やれやれ、なぁ、おらだは食いものぁないばりで、雨しのぎはあるわけだ。地蔵さまは雨しのぎも持たないで、哀れだから…」 自分が売りに行く笠を降ろして、そして、地蔵さまさミノを着せては笠をかぶせ、 自分の背負ったな、みな六人さ着せて、かぶせてしまった。そして買物もしないで戻って来たど。 「何買って来たか」 て、ばっちゃ、 「今日は寒い空でミゾレぁ降ってひどいから、道傍行ったら地蔵さま六人立っていやったどて、あまり寒いから地蔵さまにミノ着せて、笠かぶせてみな置いて来た」 そしたら、ばっちゃが、 「いやいや、ええことした、ものを助けるざぁええごんだ」 て、ばさまは本当に喜んで、 「おらだなど、こうして寒い思いもしないで暮していっから、食いものなど、お正月のものなど何も食ねったってええ」 て、ばっちゃも喜んで二人で、まずお正月きたげんども休んで、その夜休んでいたら大したダイモチの音ぁする。 「何だべな、大したダイモチの音ぁする。木挽きではあんまいしな」 て、二人でまず不思議立てっだ。そしたら自分の家の近くまできて、ちょうどじじとばばどこの前さ、ダイモチを降ろして、 「じじ、じじ、ばば、ばば、寒いとき、ミノカサつけて、雨しのぎさせてもらったから、その代りに唐戸を引いてきたから、その中開けてみっど、何でも望みのものあっから、早く出はってみろよ」 て、帰っていったそうだ。それからじっちゃとばっちゃ起きて出はってみたら、大きな唐戸開けてみたら、いろいろ餅のようなものから、お正月の仕度のものから、みな入ってだ。 「いやいや、ありがたい、ありがたい」 て、家さ入っで、じっちゃどばっちゃは立派なお正月していたどさ、こんど隣のばっちゃが来た。 「寒いから、火呉(く)ろ」 「ええどこでない、火など持って行げ」 「いや、こっちの家で、どうしたわけでこがえに立派な、うまいものから、いろいろ、さまざまええ着物ある、なじょなだ」 て聞いたら、 「じいちゃんが、きのうお正月の買物に行ったとき、六地蔵さまが、ミゾレにまけて寒そうにしていたから、買物しないで、みなミノとカサを着せたりかぶせたりしてきたどこだった。したら昨夜、こういうもの持って来て、置いでって呉っじゃ」 「いやいや、ええことなんじゃ、そんじゃおらえのじっちゃも明日やって見んなね」 て、ばぁちゃんが帰って行った。そしてじいさん方さ、 「隣のじいさんなの、きんな買物に行って、ミノカサ持って行ったげんども、みな地蔵さまさ着せたり、かぶせたりしてきた、おまえも行ってきたらええべ」 そうすっど、じいちゃんも行ったごんだど。これはたんと稼がねもんだから、じいちゃとばぁちゃがミノ、新しいのないもんだから、古いの持って行ったそうだ。そして行ってみたらやっぱり、雨に濡っだり、雪さ掛ったりして、地蔵さまいた。そいつさ古いミノとカサかぶせたりして、そしてまず帰ってきて寝っだそうだ。そしたら、またダイモチの音ぁする。「奇態だな、不思議な地蔵さま、ほんではこんど、唐戸をひいて来てくっじゃようだ」 て、じっちゃとばっちゃ出てみっだど。そしたら唐戸を引いて地蔵さま来たど。 「じっちゃ、じっちゃ、昨日(きんな)ミノと笠をかぶせて着せてもらったから、戸開けてみてくろ」 て、そう言うてお庭さ置いて行ったどはぁ、そうしてこんど何かうまいものから、いっぱい持ってきたと思って、じっちゃとばっちゃ開けてみたら、蛇からいろいろなケモノから皆出はってきた。じっちゃとばっちゃどさ掛ったど。そしてはぁ過ちして泣いていたどさ、隣のばぁちゃどじっちゃがきて、 「なして、おまえ方泣いでる」 そしたら、その、 「地蔵さまさ、お前でミノと笠かぶせて来たなで、いろいろなものもらったて言うから、おらえのじっちゃも行って、かぶせて来たなで、いろいろなものもらったて言うから、おらえのじっちゃも行って、かぶせて来たら、地蔵さま、唐戸ひいて来たなさ、こういうもの入って、そうしてはぁ、過ちして泣いっだどこだ」 んだから、人の真似はするもんでないど。とーびったり。 |
(男鹿てつの) |
>>中津川昔話集(下) 目次へ |