65 くいごこむかし

 むかしあるところに、じいさんとばぁさんが、下のじいさんと上のじいさんがいて、下のじいさんと上のじいさんがヤナ掛けて、雑魚とりしたわけだな。そして上のじいさんが行ってみたら、雑魚さっぱり掛んねで、くいごこ掛っていたど。そうすっど、
「こがえなもの掛ってざぁ…」
 怒って、そのくいごこ放げて、そしたら下のじいさんのヤナさ掛ったわけだ。そしたら下のじいさんが喜んで、
「むごさい。子どももいないし、そんでは子どもの代りに育てる」
 て、拾ってきて、ばぁさんと二人で、まず大切に育てたど。そうしたら、大きくなって、うまいもの食せらっじゃもんだから、大きくなって、そしてあるとき、
「山さ遊びに歩(あ)えべ」
 て言うから、
「山さなの、とても年寄りで登らんねから行かんね」
 て言うたども、
「ほんじゃ、おれの背中さのってあえべ」
 て、そして皆つけて、道具、掘るもの、チョウナからカマスから、その上さのってじいさんばぁさんのせて、そして行ったそうだ。そして高い山、森のようなとこあっどこさ行って、「ここ掘れ」て教えらっで、じいさんが掘ってみたら、いろいろ小判だの、むかしのお金ざくざく出たど。
「ばぁさんもこっち掘れ」
 これさも、また出たわけだ。そしてまずカマスさ入れていっぱい持って下(さ)がったどな、家さ。そして洗って乾かして、そしていろいろなもの買って、楽しんでいたどさ、隣のじいさん、ばぁさんが「火無くしたから」―むかし火打ちで叩いておこしたもんだからな―火もらいに来た。「火なくしたから、火呉っじぇおくやい」て来たほだ。そして火もらって、
「こっちの家では、何していろいろなもの求めたごんだ、お金を」
 て。そしたところが、
「くいごこ拾ってきて、くいごこ、なえだことだか拾ってきて、そして子どもの代りに育てたら、大きくなって山さ遊びにあえべて言わっで、まず行って、ここ掘れて言わっだから、掘ってみたらお金が出た。そいつを持って来て買って、まず富貴で、こうして暮している」
 て、ばぁさん言ったど。
「ほんじゃ、そのくいごこ借りたい」
 て、ばぁさんが…。
「貸さんない、むごさいから」
 貸さんないて言うたげんども、「貸せ、貸せ」ってばぁさんが無理無理持って行ったずだな。そしてじいさんとばぁさんがつれて行ったげんども、そのくいごこが動かねずもの。あきらめてはぁ。無理無理、山さつれて行ったわけだな。まだ動かなくなってはぁ、どさも行かんねくて、
「ようやくここで休んだから、ここ掘れ」
 ずうごんだべと思って掘ったそうだな。そうしたら、石ころだの蜂の巣などばり出はって来て、お金さっぱり出きなかったど。そうしっどはぁ、きめてはぁ(怒って)、そのくいごこ殺して埋めてはぁ、そさ松の木一本植えて来たど。そして帰って来たんだし、うまいものも食わせるべと思って、まず行ったそうだ。
「くいごこ返してもらいたい」
 て。そしたらはぁ、
「お金など出っどこない、石のようなものから、蜂のようなものばり出てきて、あがえなもの殺してつぶして埋めて、そのしるしに松だけ植えて来たから行って見てこい」
 て、こう言わっだど。そしてじいさんが泣き泣き帰ってきて、そしてばぁさんと二人で行ってみたら、松の木ぁおがって大きくなっていだったど。そしてその松の木を切ってきて、そして昔、ありゃスルス、そいつで挽いて、籾入っで挽いたな、皆小判になって出はったど。そしてまたそいつで買物して、うまいもの買って来て、じいさんとばぁさんが御飯たべたどさ。また隣のばぁさんが火もらいに来た。そして火もらいに来て、
「どがえして、こがえにお金とった」
 て言うたら、やっぱり、
「松の木植えて呉っじゃな、おがて、だから切って来て、そしてスルス拵(こしゃ)って、籾挽いたところがみな小判になって出た」
 そんで、
「スルス貸してもらいたい」
 て、隣のおばぁさん。そしてスルスを貸さんないずな、無理無理借りて挽いてみたら、これも始末のわるいものばり出きて、ええもの出来ねがった。と、これもきめてはぁ、じいさんが割って焚いでしまった。そしたらまたすぐ返してもらいたいて、じいさんがとりに行ったところはぁ、
「スルスなど、あがえなもの金などさっぱり出ないで悪いものばり出たから、焚いてしまったから。そこさ灰置いたから、灰でも持って行って肥料(こやし)にでもしろ」  て言わっだそうだ。そしてまた泣き泣きはぁ、その灰もらってきて、そしてやっぱりじいさんが味つけたがして、花咲かせに出きたわけだ。そして枯れた木のあっどこさ、花咲かせていたら、お殿さまがお通りになって、
「そこにいたじい、何じいだ」
 て言わっで、
「花咲かせじいだ」
「枯木に花を咲かせられっこんだら、咲かせてみろ」
 て、そしてやっぱり、
アヤチュウチュウ コガネサラサラ
チチンプンプン
 て、灰振ったら、見事に桜だか梅だかみたいな花が咲いであったど。そして殿さまは、「みごと、みごと」て囃して、そしてまず御褒美たくさんもらってきたてな。そしてまた家さ来て、いろいろうまいもの買っていたどこさ、隣のばぁさんが、火をもらいに来た。
「どうしてこがえにお金もうけた」
 て言うたら、
「お前のどこから、スルス焚いた灰もってきて、おらえのじいさんが、花咲かせるていうて、そしたらお殿さま、下通ったとき、花咲かせたら、御褒美たくさんもらってきた」
 そしてこんどその灰、まだ残っていたなもらって、じいさんが持(たが)って行ったわけだな。その枯木んどこさ、そしたらお殿さまお通りになって、
「そこさいたじい、何じいだ」
 て聞かっじゃど。
「花咲かせじいだ」
「枯木に花咲かせられっこんだら、咲かせてみろ」
 て言わっで、これもまた、
チチンプンプン、コガネサラサラ
パラリン
 て撒いてみたげんども、灰、灰でパァパァと吹飛んでお殿さまの目(まなぐ)さなど入ったど。そのためにはぁ、罰うけて、そして御褒美ももらわねで泣き泣き家さ帰ってきたど。とーびったり。
(大石きみよ)
>>中津川昔話集(下) 目次へ