64 豆じじいと草じじい

 豆じじいと草じじい、両方似たくらいなじじい居たけど。そうしてその二人が川さヤナかけてはぁ、毎日魚引かかるな取りに行ったら、草じじいの方さ、ちっちゃなクイゴコかかったれば、
「こんなクイゴコなど、いらね」
 て、ひょいと投(ぶ)ったれば、豆じじいの方さ行って引かかったから、そして豆じじいぁ来て、
「めんごいクイゴコ引掛ってだ。家さ持って行って育てて…」
 て、家さ連れでって、じじとばばでめんごがって育てていたど。そして段々に大きくなったもんだから、大きくなって或る日、のられるくらい大きくなったど。そして、
「じじとばば、おれどさのって歩(あ)いでみろ」
 て、背中さのって、鍬つけたり、さまざまつけて、そしてのって行ったごんだど。そして畑さ行ったら、
ここ掘れ、ワンワン
ここ掘れ、ワンワン
 て言うんだから、一生懸命に掘ったれば、宝物ぁいっぱい出はってきて、そしてそれをカマスさつけだりして、家さ来て、畑から掘り出したもんだから、干しったれば、隣のばば、
「火、呉ろ」
 て来たど。
「いやいや、こっちの家ぁ、たいした宝物なもんだした。なじょして求めたもんだ」  て言うたら、
「おれ家のクイゴコ、のって歩えべて言うから、のって行ったらば、裏の山さ行って、ここ掘れワンワンというから、掘ったれば宝物ぁ、いっぱい出はってきた。そいつぁ持って来たんだ」
 て言うたらば、
「ほう、したらええごんなんだし、おらえのじじも、借りらせて行ってみんべ」
 犬貸したくないけずげんども、貸せていうもんだから、犬借っでって、そしてなんぼ歩(あ)えべとも言わねのさのって行って、そして行ったげんども、掘れとも言わねの、一生懸命で掘ったれば、いや、
ババの前さ牛の糞
ジジの前さ馬の糞
ビタカタ ビタカタ
 と出たばりで、何にも出ないものはぁ、ごしゃえで、犬ぁ殺してしまったど。そうしてそこさ墓じるしに木植えではぁ、隣のじじいは、なんぼ待ってでも犬返さねもんだから、催促に来たらば、
「犬など、さっぱり宝物など出ないけぁ、ビタカタと牛の糞など馬の糞などばりしか出ないから殺して、木植えてきたから」
「むごさいことさっだもんだ」
 なて、行ってみたれば、木は大きくなって臼になるくらい育(おが)っていたもんだから、それを切っては、臼拵って、そして餅搗っかなぁと思って、餅搗いたれば、いやぁ、ザクモクザクモクと小判が出んにも出んにも、大したいっぱい小判が出て、それから、そさまた隣のばば、
「火呉ろ」
 どかて来て、
「いやいや、大した小判なもんだした、まず」
「臼で餅搗いたれば、いっぱい小判が出て来たけぜ」
「ほんじゃ、おらえのじじに借りらせて、おらえでも搗いて見なねから、貸してやって呉れねが」
 て、そうしてこんど、臼借っでって餅を搗いてみたげんども、これもまた同じにはぁ、
「ババの前さ牛の糞、ジジの前さ馬の糞、ビタポロ、ビタポロ」
 としか出ないなだど。そうしたればごしゃいやけて、「こんなもの、ほんに」て、割ってしまって焚いてしまった方ええて、割ってはぁ、カマドさくべてはぁ焚いてしまったど。
 そしたらまた隣のじじぁ催促に来て、
「臼、なして呉んないか」
 て言うたば、
「そんなものはぁ、さっぱり何も出ないから、ごしゃげっから、割って焚いてしまった」
「いたましいことさっじゃもんだ、臼ぁ。ほんじゃ灰(あく)ばりももらって行んかなぁ」
 て、灰(あく)もらって行って、そして、なじょな拍子だったんだか、その灰ぁふうっと飛んだれば、大したきれいな花、枯木さ咲いたごんだって。
「いや、これは大したもんだ、ほんじゃ、殿さまでも通っどき、花でも咲かせてみせんべ」
 て、木さ登っていたどこ、殿さま通って行んから、
「花咲かじじい、花咲かじじい」
 て言うたば、
「そんでは、枯木さ花咲かせてみろ」
 て言わっで、
チチンプンプン
黄金(こがね) さらりん
 と、灰撒いたれば、いや咲いたにも咲いたにも、みな花咲いて、大した御褒美いっぱいもらったけど、そうしてまた隣のじじとばば聞きつけて、また、
「おれも一回真似してみっかなぁ」
 て、木さ上って
「花咲かじじい、枯木に花を咲かせてみせる」
 て言うたら、殿さま、また、
「先度もきれいだけから、また咲かせてみせろ」
チチンプンプン
黄金 さらりん
 とすれば、さっぱり花咲かね、殿さまの目(まなぐ)さ灰入って、ほうして、これは偽者だって木から引張り落さっではぁ、とんな目に会ったけど。んだから人の真似したりしねもんだけど。とーびったり。
(大石きみよ)
>>中津川昔話集(下) 目次へ