60 地蔵浄土

 むかしあっけど。ここのようなどこに、正直じじいと慾ふかじじいたど。朝げに、ばば早く起きて、座敷掃いたれば、団子一粒転んで来たな、それ、
「団子どの、団子どの、どこまでござる」
 て、ずっと追かけて行ったれば、猫くぐり穴から転んで行った。コロコロと転んで行ったな、
「どこまでござる」
 て言うど、
「御山(みやま)の堂までまいる」
 て行ってしまったど。そしてずっと追かけて行ったれば、広い野原さ出はって野原に地蔵さま立ってござったど。
「地蔵さま、地蔵さま、団子転んで来なかったべか」
「転んで来たっけぁ、おれ、拾って焙って食ったどこだ。晩げ、博奕うちに赤鬼黒鬼みな集まって博奕打ちすっから、二階さ上がって隠っでで、鶏の真似しろ。そうすっど逃げて行んから、そしてもどって行くとき、金集めて持って行げ」
 て言わっで、ばば、そこさ寄って、地蔵さまの肩さ上がれ、頭さ上がれて、ずっと上がって行ったところぁ、二階さ上がって、藁中さくぐっていたれば、夜中十二時頃になっど、赤鬼、黒鬼ぁ来て、そしてはぁ、
「何だか、人くさいようだな」
 て、
「雀とって食った、その匂いだべ」
 て、地蔵さま。
「時間が来たから、始めんべ」て、
デッチ十六、カマカイ棒
丁だ半だ
 て、一生懸命になって打っているうちにはぁ、大抵よかんべて地蔵さま言うから、
ばさま、「パタパタ、コケコー」て言うど、
「ああ、一番鶏ぁ鳴くがぁ」
 よっぽと経(もよ)ってから、また「パタパタ、コケコー」て言うど、
「さぁ、二番鶏鳴いたから、大抵夜明けっから、行くべ」
 て言うもんで、赤鬼黒鬼、金ひろげっ放しで行ってしまったはぁ、逃げて行ってしまったどこだど。そうすっど、
「降っで来い」
 て、地蔵さまに言わっで、ばさま降っできて、
「では、この金みな持って行げ」

 て言わっで、さらって行ったどこだけど。そして家さ行って、じじ、金干ししていたどさ、隣のばば、
「火呉っでけろ」
 て来たけど。朝げに。そしてあちこち見っだけぁ、
「この金、どっからこがえにもうけやった」
 て言うど、
「昨日の朝げ、早く起きて座敷掃きしたら、団子ぁ転んできたから、その団子を追かけてずっと行ったらば、地蔵さまのどこさ行って地蔵さまに、
「博奕うちぁ出っから泊って、鶏の真似しろ、そうすっど、銭みな置いて逃げて行んから、その金持って行くように泊れて言わっで泊って来たどこだ」
 て言うど、ばば、
「それぁええことだ」
 て、隣の慾ふかばば、
「ほんでは、おれも団子拵って転ばして行くべ、そして金もうけすんべ」
 て言うもんで、団子をまるめて転びもしないけずうな、コロコロとはぁ、やっと転ばして行ったどこよ。そしたばやっぱり、
「団子どの、団子どの、どこまでござる」
「御山の堂まで、まかる」
 て、コロコロ転ばして行ったれば、地蔵さまいたけざぁ、
「団子転んで来ながったべか」
 て言う。
「転んできたけがら、焙って食ったから、晩げ泊れ、博奕うち来っから、鶏の真似して銭もって行げ」
 て言わっで、
「これぁええごんだ」
 なて、ばば、二階の上さあがれとも言わねな、肩さ上がり、頭さ上がりしてはぁ、上がって、二階さ上がって行って、かぐっで藁の中さ入って隠っでいたげんど、鬼どもぁ来て、
「なえだか人くさい。今日ぁ、人ぁ来て隠っでいだんでないか」
 て言うから、
「ほでない、小鳥焼いて食った匂いだべ」
 て、地蔵さま言うんだから、またそうして博奕打ち始めて、そうすっど、ばば片ではぁ嬉しくなって、二階さ上がって、早っからはぁ、「パタパタ、コケコー」て、下手に言うてあったど。
「なえだか、昨夜(ゆんべな)の鶏と別なようだ」
 ていたら、また「パタパタ、コケコー、アハハ…」て笑ったど。そうすっどこんど鬼共ぁ「人だ」て言うもんで、二階さガラガラ上がって行って引きずりおとして殺さっでしまったど。んだから人の真似しないもんだど。むかしとーびったり。
(山口すえの)
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