地蔵浄土

 むかしむかし、あるところによいおじいさんとよいおばぁさんといだっけど。
そうしておじいさんが庭で掃き掃除してたところが、一本の稲穂拾ったど。そい
つ大事に家さ持って帰って、そいつで団子を作ったど。ほうしたれば、その団子
はどういうはずみか、一人でコロコロ、コロコロと動き出した。しておじいさん
がその後から団子さ追っかけて行ったところが、小さな孔コある。そこさ団子は
コロンと入って行ったど。ほうしておじいさんもまたその底のぞいて見たところ
が、その孔の中、大変に広く見えるもんだから、おじいさんもまたソロリと入っ
て行った。ほうして中さ入って行った団子はコロリ、コロリと転がって、そうし
て行ぐもんだから、おじいさがその後からついて行ったど。そうして、しばらく
行ったところが、そこにお地蔵さまが立ってござった。ほうしてそのお地蔵さま
の掌さ団子がちょこんと上がった。ほうすっどおじいさんは、その団子の、土の
ついたところをむしり取って、自分が食べて、きれいなどこをお地蔵さまさまた
上げ申した。そうしているうちに、お地蔵さまのおっしゃるには、
「じじ、じじ、おれの掌の上さあがれ」
「いや、もったいない、もったいない、お地蔵さま。お地蔵さまの掌さなて、上
がれるもんでない」
「ええから、上がれ」
 ておっしゃるもんだから、おじいさんが掌の上さあがった。そうしたればこん
ど、
「肩の上さあがれ」 「いやいや、もったいない、もったいない、肩の上さなて登られるもんでない」 「いや、ええから上がれ」
 て言われ申すもんだから、おじいさん、また肩さあがった。こんどは、
「おれの頭の上さあがれ」
「とんでもない、お地蔵さま、おれの身分でお地蔵さまの頭の上さなてあがった
れば罰当る」
「ええから上がれ」
 て言われ申すもんだから、おじいさんが頭の上さのった。そうしたれば、
「その梁の上さ行って隠れろ」
 こう、お地蔵さま、おっしゃった。んで、おじいさんがこんど梁の上さのぼっ
て、そうしてそこにいたところが、しばらく経って、ガヤガヤ、ガヤガヤて何か
音すっど思ったところが、赤鬼だの青鬼だの集まって来た。そうしているうちに
だんだんと赤鬼、青鬼ぁいっぱい集まって、
「ああ、みんな集まったから、一つ始めだらええがんべ」
 て言うわけで、バクチ打ちはじめだ。ほうして丁だ半だているうちに、お地蔵
さんが小さな声で、
「じじ、じじ、鶏のまねしろ」
「はい」ていうわけで、おじいさんが「コケコッコー」とやったど。そうすっど
鬼ども、
「あっ、鶏ぁ鳴いた。んだげんど、まず一番鶏だから、まだだ。もう少し早めに
しろ」
 て、またひと盛りガヤガヤて始まった。やがて頃合い見て、またお地蔵さま、
「じじ、いま一ぺん鶏のまねしろ」
 またこんど、おじいさんがコケコッコーて鳴いた。
「あっ、二番鶏だ。さあ三番鶏になっど夜明けんぞ、早くやったやった」
 なて、こんどいるうちに、お地蔵さま、「じじ、三番鶏だ」て言われるもんだか
ら、おじいさんがこんどさっきよりもほがらかな声出して、コケコッコーとやっ
たど、
「やぁ、三番鶏だ、あべはぁ、あべはぁ」
 て言うけずぁ、そのままにしてはぁ、バクチ散らかして鬼ども皆尻さかさにし
て逃げでしまった。ほうすっどお地蔵さま、
「じじ、降りてこい、また頭の上さあがれ」
「いやいや、もったいない」
「ええから上がれ、肩の上さあがれ」
「ああ、もったいない、もったいない」
「ええから掌の上さあがれ」
 て言われるままに、おじいさんまた降りてきて、お地蔵さんの前さぴたーっと
頭を下げて、そうしていたところぁ、
「じじ、そこにある金、みなお前さ呉っから、そいつ持って家さ行げ」
 そうしておじいさんはそこらに散らばっている銭だの、宝物だの、お地蔵さま
に頂戴して、ヤッコラサと持って家さ帰って来たど。そうして家さ来ておばぁさ
んにその話して、炉端でその地蔵さんにもらって来た銭だの、宝物なの並べて、
喜んで眺めっだらば、そこさ隣の欲の深いおばぁさんが火もらいに来た。
「こんにちは、また火一つ呉てけらっしゃい」
 おばぁさん、ガラーッと表の戸開けて、家の中見たところぁ、その通り、まず
銭だの宝物なの並べていたもんだから、「あらら……なえだまず、そがえにいっぱ
い、こっちの家では何して、こがえもうけたべ」
 て言うもんだから、もともと気持のやさしいおじいさんとおばぁさんなもんだ
から、今までの一部始終の話をして教えた。
「ほんじゃらば、一つ、おらえのじんつぁどこもやってみんなね」
 て言うわけで、火もらいも忘れではぁ、おばぁさんがトントンと家さ帰ってき
た。そうして早速団子をこしゃったげんども、その団子転ばねじだ。こんど仕様
ないもんだから、じんつぁ一人、棒で転ばして孔コさ入っでみたところ、またそ
こも入って行かれるようになっているもんだから、おじいさんそっから入って
行ってみた。そうして入って行ってみたところが、やっぱりそこにお堂が建って、
お地蔵さまがござったど。ほうすっど、じんつぁ、まずその団子、土ついたまま、
何構(かま)ぬ、上がれても言(や)んねの、掌さ上がり、肩さ上がり、頭さ上がって、梁の上
さあがって行った。
 ほうしているうち、また赤鬼、青鬼など、ガヤガヤ、ガヤガヤと集まって来て、
またバクチ始めた。お地蔵さまに鶏のまねしろなて言わんねげんども、話は聞い
てるもんだから、その隣のじんつぁ、大概ここらでええがど思って、コケコッコー
とやった。
「あっ、またシンポない。今日は早いようだなぁ、ほだげんど鶏鳴くぜはぁ、何(なえ)だ
べ、こりゃ、急げ急げ」
 なて、こんどまたひとしきりバクチ打ち始まった。ここらでまたええがんべと
思って、今度は隣のじんつぁ、またコケコッコーとやった。
「やっ、何だか今の音おかしいげんど二番鶏だな、まぁやれやれ」
 なているうちに、こんどじんつぁも今度面白くなって、
「一つ、三番鶏、うまくやってみんべ」
 と思って、下っ腹さ力入っで、すばらしい音出してやったずも。やったどこぁ
ええがったげんども、あんまり下っ腹さ力入ったもんだから、その拍子にブウー
と一発やってしまった。
「あっ、何(なえ)だこりゃ、今んな鶏でねぇ、人間だ、こりゃ」
 て言うけずぁ、鬼どもは、「あそこだ、あそこだ」なて言うけずぁ、じじどこ引
ずり落して、
「ゆんべなも、貴様だったな」
 なて言うけずぁ、じんつぁ、さんざんな目に会ってはぁ、銭などもらうどころ
か、ほうほうの態ではぁ、鬼どもに殺さっでしまってどはぁ、こんどは隣のばぁ
さんが、
「たいがい、おらえのじんつぁも銭と宝物いっぱい背負って来る頃だ」と思って
待てど暮せどなかなか来ね、そうしているうちに、じんつぁはとうとう出て来ね
もんだから、
「こりゃ、ゆんべの話どおり、じんつぁ失敗してはぁ、鬼どもにはぁ、命とらっ
じゃもんだと思ってはぁ後悔したど。とーびんと。
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