かちかち山

 むかしあったけど。
 あるところになぁ、おじいさんとおばぁさんといだっけど。今日はおじいさん
は山の畑さ豆蒔きに行ったど。
  一粒まいたら 千になれ
  二粒まいたら 二千になれ
 て、おじいさんは一生けんめいで豆まきしったど、ところがそこさ一匹の狸ぁ
来た。そうして畑の片わらの大きな石さ、でちっと腰かけで、悪口言う。
  一粒まいたら くっされろ
  二粒まいたら かんぶれろ
 ていうもんだから、おじいさんは最初のうちは豆まき続けっだげんど、
「なえだこの畜生」と思ったもんだから、「畜生」て言うど、狸はわらわらと逃げ
て行って、またおじいさん、
  一粒まいたら 千になれ
  二粒まいたら 二千になれ
 て、心こめて豆蒔きしてっど、また狸は石さ来て、腰をおろして、
  一粒まいたら くっされろ
  二粒まいたら かんぶれろ
 て、悪口言うもんだから、おじいさんもほとほとごしゃげで、
「こんじゃ、しょうない、この畜生」
 て、こんど家さ行ってトリモチ持って来たど。そうして石の上さベターッと塗っ
て、ほうしてまた知しゃんぷりして豆蒔きしったど。
  一粒まいたら 千になれ
  二粒まいたら 二千なれ
 て蒔いっだ時、またさっきの狸ぁ来て、石さ腰かけた。ほうしてまた悪態語る
もんだから、「ようし、こんどは」というわけで、おじいさんが立って行ったとこ
ろぁ、尻、石さベダーッとひっついっだもんだから、狸のやつは逃げらんねくて、
おじいさんにとうとう捕ってしまった。と、おじいさんが、今度はその狸、家さ
持って来て、縄でがんじがらめにして梁の上さつるしった。逆さに吊るさっで、
狸は……。
 その下でおばぁさんが粉はたきしった、トンカパンカ、トンカパンカなてよ。
「ばば、ばば、何て言うたて、この狸なえて言うたて、決して縄など解いで呉(け)だ
り、下さおろして呉(け)だりなどしんなよ、晩げ早く来て、このタヌキ、あんまりご
しゃげっから殺して狸汁して食うなだから、婆さんさ決して縄など手掛けんなよ」
 て、おじいさんが固くことわって、また豆蒔きに行った。ほうして山の畑さ行っ
て豆蒔いった時、おばぁさんがまた粉はたきして、トンカパンカ、トンカパンカ。
そうすっど狸は手足縛らっでいるもんだから、痛だくて、なかなかこたえらんね
くて、
「おばぁさん、おばぁさん、おれ、その粉はたき助(す)けっか、手伝って呉(け)っか」
「いやいや、ええて、ええて、おじいさんに決してそんげなことすんなて言わっ
じゃも」
 なて、おばぁさんが聞かない。
「あのよ、おばぁさん、あばぁさん、なかなかええおばぁさんなもんだもね、ん
だからちいと、この縄ゆるめて呉(け)んねか」
「いやいや、さんねて、さんねて、おじいさんに、おんつぁれるからさんねなだ」
「ちいーと、ゆるめて呉たら、ええがんべした」 
 いや、あんまりしつこく言うもんだから、おばぁさんも人ええもんだから、ち
いとゆるめて呉(く)っじゃど。
「ああ、ええごど、ええごど。おばぁさんありがとう。いまちいとゆるめて呉ろ、
おばぁさん」
「いや、そがえすっじど、落ちて来っど悪れがら、さんね」
「決して悪れごどしねから、こうしてじっとしていっから、ええごで。手も足も
痛くて仕様ないから、ゆるめて呉(け)ろじ、ちいとでええから」
 て、またしつこく言うもんだから、おばぁさんがまたちいとゆるめたずも。そ
うすっど、狸の奴はバダバタとやったもんだから、縄からほどけて下さ落っで、
おばぁさんが魂消て「あっ」て言う間に、狸はこんどおばぁさんの持ってだ杵で
ふり上げて、そうしておばぁさんどこ打ちのめして殺してしまったど。それのみ
ならず、おばぁさんを表さ引ずり出して、自分がこんどおばぁさんに化けて粉は
たきしったど。そうこうしているうちに、だんだん晩方になっておじいさんが帰っ
て来た。
「ばんば、ばんば、今来たどこだ。狸なじょしった」
「あのよ、おじいさん、狸などとっくにはぁ料理して狸汁して待ちっだどごだ
はぁ」
「なにごどだごど。おばぁさん、お前一人でしたながはぁ」
「んだごではぁ」
 なて、狸ぁおばぁさんに化けたのも知しゃねで、おじいさんも、
「ほんじゃ、一つ御馳走になっか」
 なて、足洗って寄ってお膳さ向ったど。ちょうどそこさ兎ぁ来たずも。ほうすっ
ど、そこさ狸ぁいたもんだから、兎見っど分かんべ、おじいさんが見ればおばぁ
さんに見えっかも知んねげんども、兎見っど狸だもな。「狸いた」て言うもんだか
ら、おじいさんがびっくりしぎょうてんして、狸はこんど、「ざまぁ見ろ」て言う
けずぁ、てんてんと逃げて行ってしまったはぁ。
「いや、こりゃ、こりゃなえだごどまず、狸汁したなて言うけ」
 て思って、おじいさんが表さ出はって見たところが、とっくにおばぁさんが殺
さっで、狸がおばぁさんに化けっだなずもなぁ。ほうすっど、おじいさんがオエ
ンオエンと泣いてよ。ところがそこさ来た兎は、こんどおじいさんをなぐさめて、
「おじいさん、おじいさん、そがえに泣かねでええでねえか、おれは一つ身代り
になって、その狸を退治してけんべ、まず泣くな止めで、二人で相談すんべ」
 て言わっでおじいさん、はしめて我にかえって、兎と一緒に物語りはじめた。
ほうして兎はこんどおじいさんと相談して、何とかしてあの狸を懲しめてやんな
ねていうわけで、まず最初に狸どこさ遊びに行った。
「狸、何しった」「兎か」「今日、一つ、山さ柴伐りに行かねか、おれ行くところ
だから、お前もあえべ」「んだか、おれも行ってみっか」
 て言うわけで、狸どこ連(せ)て柴伐りに行ったど。
 そうして、ええころ柴伐って、兎も背負って、狸も背負って、そうして山道と
ことこ来たところが、狸ば先立ちにして、兎はうしろ火打石でカチンカチンてい
わせで、火出しした。
「兎、兎、なえだここまで来たらばカチン、カチンと音すんの、何(なん)だ」
「ああ、こいつ、ここはカチカチ山だ。んだからカチンカチンて音すんのよ」
 そして、空とぼけて、そしてこんどは兎は火ぁ出たもんだから、そっと狸の背
中さ近づいて行って、柴さ火点けだ。と、暖かい春先なもんだから、たちまちに
火はボォーッと燃え上がった。
「なえだ兎、ここまで来たれば、うしろでボーッて音すんな。ありゃ何だ」
「うん、ここは、ボーボー山ていうんだ。んだから心配すんな」
 こういうわけで、ほうしているうちに、こんどは狸の背中熱くなってきたもん
だから、「アチチ……」て言うけぁ、狸は一生けんめいに走った。そうすっどます
ます火は燃え上がって、そして狸の背中は丸焼けになった。
 火傷(やけぱだ)して狸は孔の中ではぁ、うなって飯(まま)も食ねで寝っだけどはぁ。こんどは兎 は、
「一つ、火傷の薬、味噌でも持って行って塗だぐて呉(け)っか」
 こちくたま、今度擂鉢で味噌すって持って、そして狸のどこさ行ったど。
「狸、狸、何しった」
「いやいや、あのボーボー山で背中さ火のいたさっだもんで、背中焼けて、痛く
て痛くて」
「ほだったか、おれは焼けねがったげんど、お前焼けたのか、ほんじゃ火傷の薬
持って来た。妙薬だから、背中出せ、つけて呉(け)っから」
 て言うわけで、狸の背中さ、擂鉢ですった味噌、べったりとつけて呉(け)っだもん
だから、こんどは狸は痛くて、いや大声あげて泣くなだど。はつけなことかまね
で、
「この畜生、おはぁさんば殺したんだから」
 と思ってはぁ、兎はてんてんと家さ来てしまったど。
「はて、これからなじょして呉だらええか」
 と思って、また兎はおじいさんどこさ行って、相談して、こんど、一つ川原さ連(せ)
て行って、川さ沈めて呉るちゅうわけで、こんど兎は舟こしゃえ、一そうの舟は
木の舟、一そうの舟は泥でこしゃったど。そうして泥舟を干して、ええ頃になっ
てから、こんど狸どさ行ってみた。
「狸、なじょだ」
「ああ、兎か。ああやっとまず背中ええぐなって、こんど遊ばれるようになった
かなぁ」
「ああ、そうか、そいつぁええがった。んじゃ今日は山でなく、川さ遊びに行く
べ」
「なえだごど。川さなて……」
「いや、舟こしゃったから、舟遊びあえべ」
「ははぁ、そりゃ面白いがんべ。んじゃ、おれ行ぐだい」
 て言うわけで、狸はこんど兎と一緒に川原さ来た。ほうして兎は木の舟さのっ
て、狸を泥舟さのせて、ええ気で、川の中さ漕ぎ出した。そうしてええ頃深いど
さ来た時、兎は、こんど持ってだカイでもって、狸の舟を叩いて、バンと叩いて
やったところが、泥舟なもんだから、その舟は二つに割っで狸はドンブリと水の
中さつかってしまった。ほうして、狸は「助けろ、助けろ」て悲鳴を上げたげん
ど、兎は、
「何、この畜生、おばぁさんのどこ殺したでねえか。お前、仇討ちして呉っぞ。
お前のような悪い者は死んでしまえ」
 ていうわけで、そんなものさかまねではぁ、兎はトンと上がってきてしまった。
そうしておじいさんのどこさ来て、その話をして、とうとう仇討ちしたど。とー
びんと。
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