鶴布山珍蔵寺昔々、おりはた川のほとり二井山に、金蔵と申す正直者が住んでいました。宮内の町へ出た帰り道、池黒で若者が鶴を一羽しばっていじめていました。金蔵は あわれに思い、有金をはたいてその鶴を買い求め、なわをほどき放してやりまし た。鶴はよろこんで大空を舞い舞い、どこかへ飛んで行ってしまいました。 やがてその夜、金蔵の家にすごくきれいな女が現われて、私をあなたの妻にし て下さい。何か働かせてください。と何べん断ってもかえらないので、仕方なく 置くことにしました。その女は織が上手で、おった布は非常に高く売れました。 ある日のこと、女が「旦那さま、私は御恩返しに或るものをあげますから、七 日の間、決して私の部屋をのぞかないでください」といって、その日からはなれ にこもったきり、夜も昼も、コットンコットンという音が続きました。 七日目の夜の事、金蔵は待ち切れずに、一体何をおっているのかと忍び足にて、 はなれに近寄り窓のすきから中をのぞきました。とたんに金蔵はあまりの恐ろし さに、「あっ」と声を出しました。それもそのはず、織をおっているのは女に非ら ず、やせおとろえた一羽の鶴が、己が羽毛をむしり取っては織り、むしり取って は織り、すでにはだかになっているではありませんか。金蔵の叫び声に、織りは 止まり、その羽毛のない鶴は淋しくいいました。 「旦那さま、なぜ見ないでくださいといった私の言葉をお破りになったのですか。 私は御覧の通り、人間ではありません。実はこの間あなたに助けられた鶴でござ います。私がいま織っているのは、御恩返しに私の毛で作った〈おまんだら〉で す。これが私の片身でございます。……さようなら」 とて消えてなくなりました。後、金蔵は感ずるところありて僧となりました。 それで金蔵寺であった寺が、その宝物の名をとり、鶴布山珍蔵寺と改め称したと 申します。 また金蔵が助けたのは、つるはつるでも、つると申す京あたりの女織師で、そ れが尊いおまんだらを織ったという説もある。 |
>>むかしあったけど 目次へ |