吾平ばなしお羽黒さまの下に、吾平ていうないだど。かいつぁ仲々才走って、頭のええ野郎コでな、そしてある日のこと、竹筒(たけつぼ)持って、お羽黒さまの天辺から、 「見える、見える。あらら……城下に牡丹餅だのアンビンだの、いっぱい並んで だの見える。こっちの方見てみっか」 そうして、吾平、そげなこと言うだらば、天狗さまがお羽黒の方から、 「吾平、吾平、何見っだ」 したら、吾平は知しゃねふりして、 「いや、見える、見える」て言うたもんだど。天狗さま、 「見せろず、吾平」 「ほんじゃらば、天狗さま、どこにいたか分んねもの、隠れミノと隠れガサ、お れちゃ貸せ、そうすっどこの天眼鏡見せっから」 そしたば、天狗さま、「ほら」て言うたもんだから、吾平、そいつ着て、べんべ んと走って逃げて行ってしまった。 そうすっど天狗さま、天眼鏡見たげんど、さっぱり見えね。竹筒ばりだも。 「吾平の野郎、おれのどこだましたな。よし、仇とって呉んなね」 そして、吾平はがらがらと隠れミノと隠れガサもって、こんどはお菓子屋さ行っ て、アンビンを盗って、酒屋さ行って酒を盗ったり、そしてそれからコマジメだ の、うまいものあっちこっちから、豆ねじり、そんがえなものまで盗ってきて食っ たど。そして今度、雨降りの日、また泥棒に行って、そして何かええ宝物だの、 うまいものだの盗ってきたった。隠れミノと隠れガサ濡っだもんだから、吾平は 火棚さそいつ干していたば、あんまりた火焚いたもんだから、隠れミノと隠れガ サ、燃えてしまって、吾平はなくなったもんだから、そいつの灰で裸になって身成(な) りさ塗(ぬ)だぐって、またうまいものだの盗りに行ったど。そしてこんど、㊤の酒屋 さ行って酒倉さ入った。そして酒呑んだもんだから、眠ぶたくてねだ。ほうした れば、寝小便して、夜中に目覚ましたば、たっじゃもんだから、チョンチョコの どこ灰、ずうっと落ちた。ほうすっどそいつ知しゃねで、またそこら歩いっだら ば、 「チョンチョコの化けものだぁ」 なて、して、棒持(たが)って、野郎コべら、みんなに追っかけらっで、捕えらっで、 そうして水ぶっかけらっじゃれば、吾平だったもんだから、こんどはみんなにせ めらっじゃ。んだから悪れごどざぁさんねごんだごで。とーびんと。 |
(佐藤七右衛門) |
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