地蔵浄土

 むかしむかしあったけずまなぁ。
 ええおじんつぁとわるいおじんつぁどいだっけど。
そしてある日のこと、ええおじんつぁが、
「おばんさ、おばんさ、団子あぶりでもして食うべか」
 ていうて、膳部から団子と、火棚の上がわから茶ホージ降ろして、カランコロ
ン、カランコロンと煎っていだっけど。したばカランコロンてしったらば、団子、
ぽんとなって跳ね上がってコロコロ、コロコロて転んで行ったど。したば、
「団子どの、団子どの、どこまでござる」
 したらば、団子、
「家の前の、穴の中の、地蔵さまのどこさ行くなだ」
したば、ええおじんつぁ、ちょうな持(たが)って、穴堀り掘り、ずうっと行ったけど。
そしたらば、穴の中に地蔵さま立っていだっけど。そしてええおじんつぁ、
「地蔵さま、地蔵さま、団子どの来ねがったべが」
 て言うたらは、地蔵さま、
「ああ、今来たっけ、あんまりうまいそうだったもんだから、いま御馳走なった
どごだぜはぁ。その代りなぁ、おじんつぁ、ええこと教えっから、おれの膝かぶ
さ上がれ」
「いや、地蔵さま、地蔵さま、地蔵さまの膝かぶさなの、おら、とっても上がら
んね」
「ええから上がれ」
 して、上がった。今度、地蔵さま、
「おじんつぁ、おじんつぁ、肩さ上がれ」て。
「おら、地蔵さまの肩さなの、もったいなくて上がらんね」
「ええから上がれ」
「ほだがっす」
 ほうして上がったど。ほうしたれば地蔵さま、また、
「おれの頭の上さあがって、二階さ上がって行げ」
 て言うたど。そしたらば上がって行ってな、
「いまに鬼なんかぇ、いっぱい来っから、黙ってで、おれ、パタパタしたどき、
コケコッコーて言えよ」
 そうして上がって見っだば、こんどは赤鬼一番先になって、青鬼、白い鬼だの、
じゃんじゃら鬼など、鉄(かな)棒引っぱって来たけど。そしてええおじんつぁ、何すっ
かと思って見ったば、地蔵さま、パタパタて言うた。そしたばおじんつぁ、「コケ
コッコー」て言うたど。そしたば、青鬼、
「なえだい、赤鬼、今日早いようだな。一番鶏鳴いだぞはぁ」
 したば、まだずうっとしったらば、パタパタて音したもんだから、「コケコッ
コー」て、
「ほら、二番鶏だ」
 そのうち、また地蔵さま合図したもんだから、「コケコッコー」て言うたらば、
「ほら、夜明けんど。ほれ、宝物はみなそこらさ押っつけて、早くあえべ、あえ
べ」
 て言うたど。ほうしたれば、鬼などみな行ったもんだから、地蔵さま、
「こらこら、ええおじんつぁ、そいつみな呉っから、持って行げ」
 て言うたど。ほしたれば、ええおじんつぁ、
「こがえいっぱい、おらいらねげんども」
「ええから持て行げ」
 て言わっじゃもんだから、カマスさ入っで家さ来て、したば、おばんさ、
「何背負って来たもんだ」
したば、
「いや、団子どの、追掛けて行ったば、穴の中で、こがえなこと地蔵さまに貰っ
て来たぜ」
 そして埃なんか選(え)って箕さなどあけて、埃選(え)ってだば、われ、おじんつぁ隣か
ら来て、
「おっええおじんつぁ、なえだ。そがえ宝物、どっから持って来たごんだ」
 て言うたもんだから、
「こういうわけで、団子焙りしたば、あの穴の中の地蔵さまに教えらっじぇ、こ
がえして貰って来たどこだでこ」
「何どこや、ほんじゃ、おれも家さ行って、団子あぶりさんなね」
 悪(わ)れおじんつぁ、ガラガラ家さ行って、
「ばんちゃ、ばんちゃ、あの団子持ってこい」
 そしてまた、火棚から茶ホージ出して、ガランコロン、ガランコロンて団子つ
かまえて、庭の方さぶ投げて行って、
「そっちゃ行げ、そっちゃ行げ」
 押っつけてやって、ほうしたば穴の中さ、びりびり入っでやって、ほうしてま
た追っかけて行ったば、地蔵さまいだっけど。
「地蔵さま、あの団子どの来ねけがったべが」
「団子どの行ったそ、そこにいだでそ」
 そしたば、悪れおじんつぁ、
「地蔵さま、地蔵さま、こいつ食えず」
 団子、びりびりと地蔵さまの口さ食せで、地蔵さま、「あっ」て呑んでやったど。
そしたば、膝かぶさ上がれても言わねな上がって行ったど。そしたらば、また赤
鬼だの青鬼だの、白い鬼だの、じゃんじゃら鬼だの、鉄棒ひっぱって来たど。悪
れおじんつぁ、「来た、来た」なて見っだど。ほうしたばまた博奕打ち、「それ」
なてやった。今度、地蔵さまにパタパタなて、教えられもしねな、コケコッコー
て、一番鶏。
「おっ、何だい」
 赤鬼は、「今日は早いなあ、一番鶏鳴いた。おかしいなぁ」なて言うたど。
 また悪れおじんつぁ、コケコッコーて言うた。ほうしたば、
「何だか人くさいな、昨日(きんな)の宝物はさっぱりないし、こらおかしいなや赤鬼」
「ほんじゃ、探してみんべ、居だでこ、この野郎」
 ほうして、悪いおじんつぁどこ、小指と親指、ちぇんなて上げで、連(せ)て来て、
「この野郎、われごどばりしてる。昨日のなも、みな、ニサ(お前)だべ」
「ほんねえ、おれでないから、どうか堪忍しておくやい」
「わかんね」
 なて、今度は鉄棒で、バエンバエン叩がっで、ほうしたば細長くなって、なん
ぼも上側の方さ上がって行った。
「こんどからしねがら、堪忍しておくやいシ」
 ほうして、ガラガラ逃げて来た。んだから悪れごどざぁさんねごんだぞ。また
明日、別なこと教えっから、どーびんと。
(佐藤七右衛門)
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