猿聟入

 むかしあったけど。
 おかぁさん居ねくてよ、三人の娘とおとうさんばかりだったらしいんだな。
 ある年、旱魃でとても水かかんねくてよ、米も穫んねような心配しったどこさ、
猿が来て、
「お前の娘三人いたうち、一人、おらどさ呉(け)っじど、水、一晩げに皆かけて呉(け)る」
 どかて言わっで、
「ほんじゃ、おれ娘一人呉っから」
 て言ってよ、娘さも聞かねで、自分ばり約束したんだど。そしたら家さ来て、
一番の娘さ言うたら、
「そがな猿さなて、お嫁に行かね」
 て言わっで、「いや困ったな」どかて、そして二番目の子どもさ言ったら、
「猿さ嫁なて、そげな馬鹿くさい、行っていらんね」
 どかて言わっで、そして三番目は、「おさん」て名付かったて言うたか、その娘
が、「ほんじゃ、おどっつぁ、おれ行んから、嫁に行んから」
 て言うたんだそうだな。
 そしてその晩げ行ったらば、たっぷり水かかってだけど。そして次の日、泣く
泣く呉(け)でやったべちゃ。そうして暮しているうち、ある日、猿が、
「おさん、今までいっこうに里さ帰んねから、いっぺん里帰りしたらええんねが。
何お土産もって行ったらええべ」
 て言うたら、
「おら家のおどっつぁん、餅好きだから、餅持って行ったらええべ」
「そしたら、何餅もって行ったらええべ」
「うちのおどっつぁん、何かさ入っだな嫌いで、臼がらみ好きなだ」
 どかて、言うたそうだな。そうすっど本気なって、猿は臼で餅ついたらしいん
だな。そしたら、そいつ背負って二人で降りたら、きれいな桜の花咲いでいたど。
「花、きれいだから、桜の花一つ枝折って、お土産にもって行きたい」
 て言うたら、
「ほんじゃ、おれが登って行って採ってくる」
 どかて、臼背負ったまんま登って行ったど。そして中段ごろまで行ったら、
「おさん、これか」て言うたど。
「まだその上だ」て言うたら、また上さ行って、
「おさん、これか」て言うたら、段々その上、その上て、ずんずんと上まであがっ
て行ったど。上細くなってだもんだから、その枝がらみ落っで来て、猿死んでし
まったど。そして娘ばり家さ帰ってきたど。どーびんと。
(平井とよ)
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