三枚のお札

 むかしあったけど。
 お寺の小僧が栗拾いに行きたいと言うたら、和尚さまが、
「山には山姥がいるから、三枚のお札くれてやるから」
 て、栗拾いに行ったど。栗拾いしてるうちに日暮れてしまって、帰らんねぐなっ
て、そのうちちょっと灯り点いた小屋あったもんだから、入って行って、
「どうか一晩泊めてくろ。栗拾い来て暗くなってしまったから」
 て言うたら、
「ええどこでないから、泊れ」
 て言わっで泊ったら、夜中に目さめた。見たら、何してっど思ったら、一生け
んめいで出刃包丁砥ぎしったんだど。そして何すんなだど思って、そおっと見た
らば、
「これで、小僧、晩げ料理して食うのだ」
 て言うもんだから、恐(お)かなぐなって、
「便所さ行きたくなった」
 て言うたど。そしたら、
「便所だごんだから、外さ行ってこい」
 て言うもんだから、お札を一枚便所の柱に貼った。この網引っぱったら、「まだ
だて言うてな」て言うて逃げたど。ばばは綱引くど、「まだだ、まだだ」て言うも
んだから、行って見たら、綱ばっかりであったど。ほんで後追いかけて行ったら、
逃げっどこさ追いかけたら、
「大山出ろ」
て札投げだら、大きな山出たげんど、そこ走るうちに、また追いつかれそうに
なったもんだから、
「大川出ろ」
 て言うたど。そしたらまた大きな川出たらば、そこも、山姥漕ぎ始めて、追い
つかれそうになったほでに、こんど、
「大火事出ろ」
 て言うたら、大火事になって、そこで山姥焼け死んで、ほうほうの態で家さ帰っ
て来たど。どーびんと。
(平井とよ)
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