かちかち山むかしあったけど。じいさんが山さ豆蒔きに行って、 一つぶ蒔いたら千なれ 二つぶ蒔いたら二千なれ て蒔いっだら、狸ぁ来て、 一つぶ蒔いだら腐されろ 二つぶ蒔いたらドス豆 なて、悪口いうたもんだから、じいさんが追(ぼ)えば、また来て、数限りなく悪態 するもんだから、じいさんが今度ごしゃいで、モッチ持って行って、木の根の切 株さ、くっつけだ。そうすっど狸また出はって来て、そこさ休んで悪態した拍子 に、皆くっついてしまったて。そいつをじいさんが縛ってきて、下げだていうん だな。そうすっどじいさんが、 「ほんじゃ、また行って、豆蒔き終(おや)してくる」 て、出かけて行って、行った後さばぁさんが粉はたきしった。やっぱり狸てい うな、ここらでも今いるが、ちょっと死んだふりする奴で、死んだふり上手なも んだもんで、んだからじいさんが居ねうち、婆さんば欺して、 「おれが粉はたいて呉っから、縄といでけろ。ばぁさんさばり難儀させんな見か ねる」 て言うて、詐してたていうんだな。そうすっど、ばぁさんも信用して縄といて 呉(け)っじゃていうんだな。そうして粉はたいたの、ばぁさんさ、 「はだげたでねえか、見てけろ」 て言うので、ばぁさん曲ったとこ、頭を杵で叩いて、ばぁさんどこ殺して、そ してかえってが、ばぁさんとこ狸汁だなて、ばぁさんに化けて、じいさんの帰り を待ってだど。そうすっど、じいさんが帰ってきて、まず御馳走食ってみたとこ ろが、 「ずいぶん、萎(すな)こい」て言うたところが、 「道理で萎こい、婆だこで」 て言うて逃げて行ったてよ。そうすっど、じさま泣いっだどこさ、月夜なもん だから、兎来て、 「なして泣く」て聞いたところが、 「こういうわけで狸に欺さっで、ばばどこ殺さっだ」 「おれ、仇とって呉っから」て、こんど兎が狸どこ尋ねて行った。 「焚物とりあえべ」て言って、そして自分が狸さばり、 「雨降っど、取りかえしつかねんだから、いっぱい取ってあえべ」 て、杉葉から柴ばり、でっつら背負わせて、ほうして、 「おれぁ、うしろになって、めんどうして行んから……」 て、狸どこ先に立てて来たて言うんだ。途中でやっぱりうしろから火打ち石と 打金で火つけた。そうすっど、「カチカチていうの何だ」て言うたらば、 「カチカチ山だ」 そして燃えだの、「ボウボウ鳥だ」て、誤間化して、そして火傷したずだごで。 火傷してさんざん苦しんだどこさ、今度は南蛮粉売りに化けてきて、 「これは火傷の妙薬だ」て、そしてみな背中の火傷したどこさ南蛮粉つけてくれ て、ひどい目に合わせだど。 そして後から、こんど火傷治ったどこさ、舟のりに誘いに行ったど。川さな。 そして狸さ泥で作った舟、自分が板でこしゃった舟、狸どこ深みさおっつけてやっ て、仇とって呉(け)たど。んだから悪いことはさんね。とんびんと。 |
(佐藤七右衛門) |
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