16 猿地蔵むかしあったけど。じさま、山の畑さ行って昼眠しったけど。したら猿ぁきて、 「あらら、地蔵さま、こげなどこさ寝てた」 て、猿ぁ地蔵さまだと思ったべ。そうすっど谷川流っでだあっちさ立て申すべ て、その向い側さ越して行くとき、猿どもぁいっぱい来て、 「猿、ぷんぐりぬらすとも、地蔵ぷんぐりぬらすな」 て言うたど。おかしくなったの我慢してたら、屁が出たど。そうすっど、 「くさいは何だ」「香のけむり」 て行ったど。そして地蔵さまさいっぱい銭など上げたので、それ貰って来たな だど。そいつひろげっだどこさ、隣のばさま、 「火一つ呉(く)っでおくやい」 て行ったど。 「あららら、そっちの家で、なんでこのように銭どっから出した」 なて言うたど。 「こういうことで、地蔵さまの格好しったところが、みなお詣りに来て呉(く)っで、 お賽銭まいで呉っじゃ」 「いや、ほんで、おら家のじさまもやんなね」 こういうごんで、早速じさまやったわけだ。そうして、 「どういうどこさ立ってたもんだ」 「こういうどこだ」 「そこさ立たせておっから」 て行ったところが、 「何だ、向うさ移し申したんだげんど、また戻った。こんげなどこさでなく、あっ ちの方の高台さ移し申さんなね」 なて、隣のじさまに猿どもはいっぱい来て、またかついで移す気になったんだ な。ところが、〈猿ぷんぐりぬらすとも、地蔵ぷんぐりぬらすな、ホイホイ〉なて 川漕いで行ったところが、一番深いところさ行ったところが、猿、 「何だか、地蔵さま笑ったぜ」 「笑う地蔵さまなんて、あるもんでない」 「こいつは何だか、にせくさい」 なているうちに、何だか屁などたっでしまったど。 「くさいは何だ」 「香のけむり」 「なんだ尾篭な真似する地蔵さまだ、こいつテンツの地蔵さまだ。こんなもの川 さ流せ」 なて、川さぶっ投げらっだど。そうすっどじさま、みな濡れねずみになって、 泣き泣き家さ帰って来たんだな。そうすっど、ばば、 「こりゃ、じさま、銭でっつりもらって、鼻歌うたってきた」 て、喜んでいたところが、さっぱりお賽銭など上がんねで、命からがら逃げて 来たど。んだから人の真似などするもんでない。どーびんとん。 |
(竹田弘一) |
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