11 狐女房

 大阪の信田が森で、たくさん狐いたどこだどな。
 豪族が村中、頼んで狐狩りしていたもんだど。そこにお稲荷さま建っていだっ たど。そこで狐狩りしたとき、白い狐が出て来たずもな。
「これは大したもんだ」
 というもんで、みな追いかけたど。んだげんども、その狐が稲荷さまのどこに 行ったところが、いなくなったどな。
 そこで、安部保名という人がお稲荷さま、うんと信仰しったけど。百日の願か けだって。そしたば嫁さま欲しがったんだかな、百日目に、白髪の老人に会ったっ ていうたな。
「お前が願うことはかなわせてやるから、若い女の方で宿を貸して欲しいという の行くから、そん時、お前は宿を貸して、ねんごろに扱ってくれよ」
 て、こう教えらじゃったてよ。そしていなくなってしまったってよ。したら次 の晩げ、若い娘来たど。
「一夜の宿、貸して呉(く)ろ」
 そうすっど、神さまから言わっじゃもんだから、その女どこ泊めたど。そした ら帰って行かねで、そこにかまわず、保名の家にいだっていうたな。そしたは身 持ちになったてもな。
 子どもが出てからよ、三つ四つになった頃、その女がいなくなったてよ。なんぼ探(た) ねっけんども、いねってよ。そうすっど戸の口の窓さ字書いて行ったど。
    恋しくば尋ねきてみよ 泉なる
     信太が森のうらみ葛の葉
 てな。
「こいつはやっぱり神さまの使いだったな」
 と、そん時思ったど。そしたばその子どもがとんな利巧人で、何でも教えたこ と、一ぺん聞いたきりで、憶えてしまったど。そしてその子どもが安部晴明とい う人で、その人は後にえらくなって、気象学あらわしたもんだど。
(小関清輝)
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