6 猫の恩返しむかしむかし、ある山寺で和尚さまが一人で托鉢して暮しておったそうだ。そ して虎毛猫一匹飼っていたど。ほして猫、うんと大事にしてたそうだ。ほんで托 鉢に行って来(く)っど、「トラ」ていうど、猫は喜んで迎えに来る。そして何年もそう して可愛がっていたに、ある晩げ、「トラ、トラ、こんな貧乏などこに飼わっでいるより、旦那衆さ行って飼わっだ 方がええがんべ」 こう言うたそうだ。そしたば今まで音も立てねで、ニャァニャァていた猫が、 こんどは喋ったじもな。 「和尚さま、和尚さま、おれ、永年飼わっでいんの、ありがたいもんだ。そんで 和尚さまに御恩返しすっから待っで呉(く)ろ。いま少し経(た)つと、ある旦那衆で葬式あっ から、そん時おれが棺桶を吊るして、絶対に降ろさねがら、なんぼ和尚さま大勢 来て、お経上げだってその棺桶降ろさねがら、そんどき、和尚さまござっておく やい。そして和尚さまがおれどこ呼ばって呉(く)ろ。そうすっどおれ降ろすから、そ いつ和尚さまが莫大なお礼金もらうから、一生楽に暮されるようになっから、こ いつはかまわずおれがお礼返しすんのだから」 ていうた。そして次の朝、猫いなくなった。なんぼ呼ばってもいね。 ど、和尚さま、やっぱり二・三日過ぎてから、托鉢に出かけたそうだもな。そ の時、やっぱりあるところに葬式あったそうだ。そうしたところが、棺桶吊るさっ て、降ろすべきぁなくて、葬式出さんねどこだ。ほんでえらい和尚さまなど呼ばっ て来っけんども、なんぼお経上げても降りない。大さわぎだというどこさ行った て言うたな。 「そんならば、おれ、お経上げて降ろすようにしてあげる」 ていうたど。みすぼらしい坊主なもんだから、 「お前などお経上げだって、降ちるもんでない。町の大和尚来て降りないのだか ら」 「ああ、そうか」 て、帰って来たそうだな。そうすっどそのことを家の人さ教えに来たったな。 「そういう坊主来たった」 て。そうすっど、こっちは誰でもええ、 「ほんじゃ、呼ばって来い」 て、後追っかけて呼ばり返したってな。そしてその和尚さまが、大勢和尚さま がいたどこ、魂消ないで行ったそうだ。ほしてお経上げて、 「ナムカラタンノー、トラヤーヤー」 て呼ばったど。そしたらば棺がスルスル、スルと降りて来たど。そして満足に 葬式出すことできたってよ。そして一生分、その和尚さまがお礼もらって安態に 暮さっだど。ほんで死人の傍さは決して猫やるもんでないど。猫は魔物だ。どー びんと。 |
(小関清輝) |
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