-(10)旅の手品師-

とんとむかしあったけど。
 ある雪降る晩方、旅人が、「今晩一晩、宿貸してけろ」て来たけていうなだな。ほんでその家では、
「おら家では、焚物もないし、泊めらんね」ていうたそうだ。そしてその人がいうには、 「焚物も何もいらね。おれは実は手品つかいだ。おれ、焚物などいらねはげて、一晩ぐらい、おれの足焚いてあだっさげ」て言うたそうだな。そして、
「ほだら泊まらっしゃえ」て、囲炉裡端さ坐ってで、火は燃えっだけべげんど、「おれは足焚いてあたる」て、足二本、囲炉裡の真中さ入(い)っで一生けんめい燃やしたど。
「なえだて不思議だ、不思議だ」て、家の人は、
「まず、足など焚いて明日など行ぐいべか」
 そして、一晩足焚いっだていうなだな。
 次の朝げになったて。そして、「お世話になりました」て、立ったていうなだな。
「はて、不思議なもんだ、不思議なもんだ」ていたていうなだな。そしたところが、あまり不思議なもんだはげて、家の中見たていうなだ。そして見たところが庭の上の方さ、むかしの木綿織る機(はた)師(し)下げっだけな、その機師ないず、ほれぁ。
「はぁて、そこさ機師下げっだったのないぜぁ、はぁて、ほだれば、あいつ焚いたであんまいしな」て見たれば、その機師降(おと)して、そいつみな焚がっでだけてな。そんでどんびん。
(横尾高治)
>>木小屋の生活 目次へ