-(5)炭焼長者-

八島与三郎
 むかし、あるお姫さまていわっだぐらいな女ださけて、相当な家庭の娘さんであったど。なかなか器量といい、頭といい、何でも抜けた人ではあったけれどもなかなか縁談はないわけだって。
「はて、不思議なもんだ、三十才になっても何一つ縁談が来ね」
ていうわけだ。その時その娘さんも親たちは無論のこと、気もんではいたものの、んだたて無いものには何故も仕様ないんだし、早く花嫁(むかさり)でもさせっだいというのが人情なんだげんど、何にもその話ざぁないていうわけだ。それから、
「何かなぁ、まず、八卦おきみたいなどさでも行ってきいてみたごんだら、こりゃ、何かないもんだか」
 ていうわけで、工夫にあぐっで、八卦おきに行ったていうわけよ。何か欠点があってのことだればあきらめようもあっけんども、何と言い、指のさすどこぁない抜け人であったていうわけよ。そして聞いてもらうど、
「お前としては縁談がないわけではないなだ。お前に縁談が決まっているところぁ、ただ一人ある、それというどこは、宝沢入りというどこに、炭焼きしてる若者がいる。そこだらたしかに縁があるようだ」
 こう教えらっだど。
「年も年だし、もらってさえ呉(け)るだらば、馬鹿でもない限りは商売なの、なじょな商売でもええ、自分としては金もすこだま持ってるし、何でも不自由なく行(ゆ)ぐいなだはけ、どんな貧乏している人でも、何も差支えない。とにかく尋ねて行って見ねごどには分んね」
 こういうわけで、宝沢入りという山を尋ねて行ったていうわけよ。そうして、
「炭焼きをしているていうなだはげ、行ったら会(あ)ういそうなもんだ」  て、山さ行ったずなだ。たずねたずねして行ったところが、どこからともなく木を切る音がしたというわけよ。いうとおり炭もいぶって、炭焼きしったというわけよ。
「なえだ、何しに来たんだ」て言わっだど。
「いや、こういうわけで来たんだ」て。そうして、ほれ、
「こういうところに、お聞きしてもらったところが、お前に縁があんなだて言わっで、実は尋ねたずね来たんだ。おれのような気に入らね女だべげんども、何とかお前のお嫁さんにして頂いてもらいだい」て、こういうたずんだ。
「いや、お前みたいな、おれぁ、ほだな貰う身分でない、こうして毎日稼いでさえも、やっとこ米を買い、味噌を買い、その日その日暮していんなだ。駄目だはげて帰って呉らっしゃい」
 こう言わっだでいうなだ。
「いや、ほだなこと言わねで何とか、おれもほだな銭や金は持って来っさげて、お前ちゃなの、ほだえ難儀させねで暮させっさげて、なぜかもらってばり呉(け)らんねが」て、嘆願したていうわけよな。居るには仕様ないし、そだえして二日・三日暮したていうわけよ。暮してみれば悪くもないんだし、また米もなくなったようだし、
「おれぁ今日米買いに行ってくる」
「ああ、ほうか、ほだれば銭はおれ持ったから」て、大判小判あずけて、 「そいつで米を買ってござっしゃい」て、あずけてよこしたていうわけよ。 「ほだか、おれは町さ行って来る。留守はよろしく頼む」て、山から降りだというわけよ。ほうしてずうっと来たところぁ、ある川みたいなどこであったか、また水たまりみたいなどこであったか、鶴とかサギとかいたていうわけよ。そいつ若者はいたって呑気だから、何も持たない欲とてもない。それから鳥もいたし、思いがけなく自分がもらってきた小判ぶっつけてやったてだな。そうしていたものの、「たんと買って来るように」て教えらっで来たんだげんど、いつもの通り米の二升も買ったんだか、いつも買ってくるものしか買って来ねずもほれ。嫁さんは、
「いま来っか、晩方だはげて、来る近くだ」て、夕飯の仕度でもして待ってだというわけよ。ところがトコトコと来たというわけだ。なんぼか米だら一斗でも背負ってくる勘定して、食いものも、すこだま買ってくる勘定して見っだところが何にも格別なもの買って来ねていうわけだ。
「なえだて、あればり買ってきた。銭もあずけてあるから、なんぼも買うえなだ」
「なんだ、おれの銭、鳥居ださげて、ぶっつけてやったけな」て言うたてわけよ。
「なえだって、そだなごどする。あの金あれば、相当のもの買うえなだ」
「あだな金だら、おれぁなんぼもある」「どこにある」ていうたら、
「どこにあるなて、ほげな巡り石でも、ドンズキ石でも、みなそいつだなや」ていう。そしたら巡り石、ドンズキ石、みなそいつだけてな。それから魂消て、
「おやおや、これでは大したもんだ」ていうわけだど。そしたら殿さまにいろいろ買い上げらっで、得分(とくぶん)をもったお姫さまで立派に暮したど。どんびん。
(八島与三郎)
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