-(4)山田白滝-八島与三郎むかしのひらけない時代でもあったがして、こうした東根でも一番ていう豪家があったていうわけよ。そしてそこには一人娘がいて、聟をもらわんなねというような家であったわけだな。んで、 「おらえの家では、こういう家柄で聟をもらうにしても、なんたなでもええ、見たどこさえもええどええて言うようなごんでは、こりゃ駄目だ。この身成(しんよう)持ってもらうには、相当の頭といい、度胸といい、そなわった者でなくては駄目だ」 て。そして、ほれ、ところどころに立札をしったていうわけだ。そしてそこに歌をかいて、これに返し歌をうまく返した者には、聟にもらうと、こういうような歌の文句を書いて立札をしったていうわけよ。 娘といえば、誰から見ても器量は言うまでもなくええ娘だし、身(しん)肢(し)と言い、誰だって聟なの行きたいげんど、もらって呉(け)ねごどには駄目だし、あらゆる人が目つけて見て歩くていうわけだ。 そうこうしているうちに、ある身成どか何どかてある家の息子でもないなだげんど、ある素朴な若者がちょっと目をつけだていうわけよ。 「はぁ、こりゃ、これに歌さえも返せば、うまい、気に合った返し歌さえもすりゃ、聟もらわれるだら、一つ、おれぁ出してみんべ」 て、こういうような心掛けで、なんとか一つ出してみっかて、書いて出したっていうわけよ。そして、立札の歌は、 白滝に心よせたか山田の案山子(かかし) ていうのだったから、それに対して 山田の稲も枯れそうだ 助けて呉(く)れろちゃ 白滝の水 て、こう書いたわけだ。その若者がね。んでこんど娘の方では、「山田の稲も」は、これだらええということになったていうわけだ。そうして、いよいよ御祝儀ていうことになったど。 「何も、おら家さ来るものは不自由はない。んだはけて、タンスだの長持だのて、おら家では何もいらね。体さえも来っどええのだて言うようなことで来た」 ていうわけだ。そして立派な部屋もたせらっで、上げ膳、下げ膳で暮しったていうわけよ。そうしているうちに肝心の娘殿の姿がそれ以来一つも見せねていうんだな。 「こいつぁおかしい、ほだげんど、こりゃ、ほだなことでセクセクしてらんね。必ず娘が居てもらわっだんだべ。必ずいつかは来んべさげて、まずほだなことではセクセクしていらんね」 て、こうしているうちに一週間もいたか、二週間もよったか。 ある晩のこと、夜中にガサラガサラて来たていうわけだ。そして言うことには、「わがつまよ、わがつまよ」ていうたてよ。見たところが、なんとヤレ、白装束のザンギリかぶりの化物だていうわけよ。ほだげんどもその若者は絶対そういうことには驚かねし、落付いて相手なったてよ。そうして言うことには、 「なえだて、おら家さはあなたをおもらいしたげんども、実はこういうわけで、おれとしての悩みがあるもので、この悩みを消さねうちには、とても聟にはできないんだ」 「そういうことていうのは、一体どういうことだか話してもらいたい」 て、こう言わっだど。娘のいうことには、 「実はおれとしては、なんとも食だくて仕様ない食いものがあるんだ。この食いものさえおれが食べだごんだらば、立派にあなたと添うことできんなだげんど、この食いものを自分が食べないうちは、とても添うことが出来ないんだ」 「んじゃ、そいつを食べて一緒に行って食べて呉れることできないか」 「ほだなことなの、何、こと易い」て、そして、ほれ、 「お前の言うとおりになっさげて、出してけらっしゃい」 こう言うて、若者は出たていうわけよ。そうして娘のいうことには、 「ほだれば、今夜のうちに、おれについて行ってもらいたい」 て、こう言うたど。そして一緒に行って見たげんど、どこさ案内するもんだか。ところがある寺の屋敷に行ったていうわけよ。そして夜の夜中のごんでもあるんだし、気味わるいていえば気味わるい。娘の姿も化物の姿だし、場所といい、お寺のさびしい場所だし、行くときは鍬一丁かついで行ってもらいたいて、鍬一丁を持(たが)かせて案内したていうわけよ。なぜするなだて、恐るおそる行ってみたところが、 「ここ掘ってもらいたい」て言うど。 「はて、不思議なことする。一端こうした以上は、たまげてもいらんね。やるどこまでやってみんべ」 そういう気持でそこ掘ったていうわけよ。したれば一つの、ええあんばいな棺が出たていうわけよ。 「この棺を出してもらいたい」 そしていうとおりになって棺を出したていうわけだ。 「この棺の蓋を取ってもらいたい」て、こういうわけだ。言うなりに蓋をとったど。ところが、蓋をとってみたところが中にはええあんばいの子どもの姿が出たていうわけだ。 「実は、わがつまよ、この死人を、おれは食べたいなだ。これさえもおれぁ食べれば、あなたと添うことができんなだ。今まではこれが食(く)た甲斐なくて、添うことはできねなだった」 て、開けるより早くかぶついて食ったていうわけだ。そうして、 「うまかった、うまかった」ていうわけで家に帰ってきたていうわけだど。 「はて、変なこともあるもんだ」て、若者もいたげんど、実際こうした覚悟でのぞんだもんだから、絶対におどろいたりしてはいらんねという気持で、恐るおそる来たずだど。そして家に帰ってみたところが、ちゃんと家の方では娘は起きてはぁ、御飯じまいから何からしったていうわけよ。 「ええがった、ええがった」ていうて、親たちからもな。そして見たところが、その娘の姿もカラリと変って、元の立派な娘の姿で来たていうわけよ。 「こんでこそ、おら家の聟になる人だ」ていうわけで、立派に同じ部屋で聟になり、立派に妻になったていう話だ。やっぱり度胸を見んがためにそうした計らいをしたんだど。どんびん。 |
(八島与三郎) |
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