-(1)兎と田螺(つぶ)-八島与三郎 ある暖かい日でもあったか、兎が山を一日かけまくって遊んでいだていうわけだ。ところが暖かい日でもあるし、喉がかわき加減でどこかに水がないかというようなことで、ずうっと降(さが)ってきて、沢みたいなところに降(お)っで来たていうわけだ。そいつは、あるどこにトコトコと流っでいる水の音している水を見(め)けだていうわけよ。「こりゃ、一杯飲(の)むい」と、そうして飲まんとしていたところが、田螺いたど。一匹な。 「なえだ、おかしな格好だなィ」なて、馬鹿にしていたわけだ。そして水を飲んで喉をうるおして、田螺さいろいろからくた(からかった)わけだ。 「なえだか、変てこだな。尻(けつ)はねじっでっす」なていう調子でからくた。そして、 トコトコ流れの水くぐり 尻つねじれて おらおかしい て悪口したずも。 「なんだ、お前だけおかしいでないか。お前ばも、おれぁ言うて呉る」 ホイト山の木かじり 耳が長くて、おらおかしい て返したていうわけだ。兎も言わっだれば、われも言うていだはけて、これも仕方ない、走り方がつまんないもんださけて、 「走り方だれば、おれちゃ敵わねべなぁ、お田螺さん」ていうど、 「いや、敵うも敵わねもない、そだなことは勝負ごとで拍子もんだ」 「ほだたて、足もなくて」 「いや、ほだなこと、差支(さす)かえない」 「ほだら、おれと走りくらしたらええがんべ」というわけだ。ほだればどこまでと、兎ぁとっとと行って旗立ててきたていうわけよ。 「んだら、あそこまでおれと走っくらしたらええべ」 そうして走っくらするべぇと、並んで立ったわけだ。ほだげんど田螺はうしろさいたど。 「出はったらええがんべ」 「いや、おれは出はらねったて差支かえない。なに、おれは差支かえない。お前ばり負けねようさっしゃい」 そういって兎はヨーイ・ドンと走ったていうわけよ。そんどき田螺は尾(おっぽ)さピタッとくっついたど。そうしていよいよ旗さ近づかんとした時に、二、三米前に田螺は、ぼいっら離っで、その調子でストーンと前さ吹っとんで行ったわけよ。そうして兎は負けたていうわけで、頭かいて逃げて行ったていうわけだ。んだからあんまり自慢をすんなというごんだど。どんびん。 |
(八島与三郎) |
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