2 お杉お玉

 むかしあったけど。
 あるところに、おっかぁに死なれ、お杉という女の子一人もったおどっつぁいであったど。世話する人がいて、新しいおっかぁもらったど。そしたら、そのおっかぁにも女の子が生れたど。そして名前は「お玉」と付けたけど。
 おっかぁはお玉ばりめんごがっては、お杉ばいじめっじもの。ある時、おどっつぁが出かせぎに行って来っから、子どもたち頼んだぞといって、子ども好きの親父は出て行ったど。
 留守のあいだに、おっかぁは何とが、お杉を片付けてしまうべど遠(とお)がい山さ置いで来るごどを考えで、誰かに見つかっどわるいがら、箱さでも入れて行くべど思って、大きな箱出したど。それをお玉が見で、
「おっか、おっか、何しんなやど聞いだど。おっかぁは、めんごいめんごいお玉なもんだから、
「これさ、姉さば入れで、山さ置いてくんなだ。そうせば、お前にだけうまいもの、いっぱい食せられっごだい」
 と言ったど。それを聞いだお玉は、たまげで、これは大変だ。何とかして助けたいど考え、姉おもいのお玉は、ケシの種を姉ちゃさ持たせで、
「おっかぁが、姉を箱に入れで、背負って山さ置ぎに行んから、その箱にちっちゃい孔あけで置いだがら、その孔がら、この種をこぼし、こぼし行げよ。そしたら後で、おれ、それを見、見行って、助けっから」
 ていうたど。そしてお杉はおっかぁに、箱さむりやりつめらっではぁ、背負って行がっで、山さ置いで来らっだど。
 次の日、お玉はおっかぁが仕事に出て行った隙に、にぎり飯(まま)いっぱい拵えではぁ、けしの実をさがしさがし行ったら、ふしぎなことに、山に掛ったら、けしがおえで、花まであっちこっちに咲いでいだけど。これはやさしいお玉のこころを神さまがあわれんだなだごだい。そして奥山まで行ったら、箱あったど。その箱ぼっこして、姉ちゃば出して、
「姉ちゃ、姉ちゃ、腹へったべや、早く飯食え」て、飯食わせで、姉ちゃ、家さ行けば、またおっかにいじめられっから、二人で逃げんべて相談してはぁ、町の方さ行って、大きな家見つけで、そごでつかってもらってだど。
 家では暗くなってもお玉が見えないので、おっかぁ心配してだどさ、おどっつぁ帰って来て、「お杉とお玉が見えないがどこさ行った」て、かかに聞いだら、
「二人で、どこさ行ったが、わがんない」
 なんて、とぼけたごど言ったら、子ども見だくて、早く帰ったほどの、子ども好きなおどっつぁは、泣ぎ泣ぎ、そこらこごら探したども、近所隣りにはいないけど。おどっつぁはあんまり泣いで、目見えなぐなってしまったので、鉦(かね)を叩きながら、
  お杉とお玉がいたならば
  なんでこの鉦叩こばや
  ちんからかん
 と叩きながら、遠がい町の方まで行ったど。そしたら大きな家でやどわっで一生懸命稼いでだけようだ家の前まで来たど。
「お杉どお玉がいだならば、なんでこの鉦叩こばやー」ど、悲しげな声を、姉妹も聞きつけで、出はってみだら、自分たちのおどっつぁだったので、二人は双方からおどっつぁどたぐりついだど。そしたらおどっつぁは魂消て、ひょうしに見えなかった目がぽかっと明いだど。おどっつぁは喜んで、二人の娘をつれで家さ帰ったど。おっかぁも悪がったど謝っては、仲よく暮したど。むかしとーびん。


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