85 鬼神のお松むかしあったけど。笠松峠って、けわしい峠あったけど。そうしてそこに鬼神のお松て名付けらっだ泥棒いだっけど。そして、通る人、通る人もみんなそれに殺さっではぁ、そこさ行った人で帰った人はめったにながったど。 そしてある日、夏目弾正白三郎という人通りかかって来たば、川端さ倒れたきれいな女いたずもの。そして、 「ああ、腹病(や)める、腹病める」て、苦しんでいるもんだから、 「そがえに腹病めるでは、こんなどこにいらんねがら、医者でも行くとか、向うの宿場さ渡る他ないから、おれに背負(ぶ)され」 て、そして背負(ぶ)って大井川を背負って、真中ごろまで来っどはぁ、その脇差抜いではぁ、白三郎ば殺してしまったずも。そして自分はまた元のように逃げて、そこの名前は 一里のぼれば不動が滝 二里のぼれば十二が屋形 三里のぼれば人も通らぬ 岩屋の屏風 ていう、けわしいどこさ逃げて行ったど。家では一週間もよっても帰って来ないなて心配しったけど。そしてこんど、いるうちに権助と三助と二人で雑魚釣りに行ったずも。そしてずっと川渕歩いで行って、釣してるうちに、何だか薄黒いもの、大きな石さ引っ掛っていたと思ったば、なんだか白三郎という人死んだという話聞いた、それでもないんだか、とにかくお上さ届けてみねぇかて、その死体ばお上さ届けてみたば、やっぱりその死骸であったそうだ。そうしてこんど、それを拾い上げて息子は夏目仙太郎という人であったけど。それ、こんどまた仇討ちたいまんまに、けわしいどこさ行って、岩のぼって一里のぼれば不動滝、二里のぼれば十二が屋形、三里のぼって行って、人も通らぬ岩屋の屏風、それ通り抜けてまた行ってみたば、やっぱり川端にきれいな女、どこわるいんだか苦しんで寝っだそうだ。 「どこ悪い」ていうたば、「今日、何もはぁ、足は病める、腹はやめる、この川渡りたいと思ったども、とても渡らんね」て、また、 「それは嘘だ。にせものだ。名を名のってやる。この前、おれの父の夏目弾正白三郎ていうのば打ったの、貴様にちがいないから、尋常に勝負しろ」 て、そういうたど。そしてこんど、鬼神のお松も短刀もって、一生懸命たたがったども、とても仙太郎には敵わない。めでたく仇とって家さ帰ったど。むかしとーびん。 |
>>川崎みさをさんの昔話 目次へ |