80 酒呑童子 ― 瞽女口説 ―
酒呑童子は今こそ鬼 むかしの変化(へんげ)の世にあるときは、イタコシカ村の権助の総領、親にならの養子にくれて、吉田長野でわが師匠寺に、稚児にやりたや十六才、おとこ美男と浮名を立てて、世間世情の女郎姫たちに、遊び来いとの恋文もらう、文の来ること万灯(まんど)の如く、笠の続くことメドリ葉(一枚々々の葉)の如く、和尚きびしょで見ることならぬ、今日は日もよい天気もよいし、和尚の留守の間に文干ししようと、カワゴツヅラの蓋とれば、人(ひと)の思いは恐ろしもので、顔へかかりて、ガエンとなりて、角は生えたし、金歯は生えて、ところ鎮守に、ここに居るなと追い立てられて、ここにいられず弥彦の山に、弥彦大明神に追い立てられて、ここにいられず大江の山に、丹波大江山は鬼の住む山で、鬼を集めて家来と名付(つ)けて、世間世情の女郎姫たちをさろうて来、血をしぼりて酒と名付(つ)けて、肉を刻んで肴と名付け、これを天下に聞えたならば、一に頼光、二に渡辺の綱、三に貞光、四に宝生、五に金時、六季武、あれら六人おえない手合い、腰にホラの貝、手に数珠さげて、知らぬ山道、ちどりたどり登りくる、ヤーレ。
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