70 田の草取りむかしあったけど。越後に大百姓いでやったど。そしてこんど、大百姓なもんだから、田も大きな田ばっかり持ってであったど。若衆もいっぱい置く、そしてはぁ、秋になっど、どうもその田の真中ごろええぐないもんだずも。それから、その旦那、あるとき田の草取んねで、ぐるりばかり取ってだなであったど。 「いや、これでは困った」 と。そう思ってある日、こんど五升樽背負って行ったど。そしてこんど、田の真中さ五升樽おいて来たごんだど。そして若衆上がって来たど。 「にさだ、どこそこの大田、田の草取ったが」 て、こう聞いたど。 「取ったぜ、旦那さま」 て、こういうずもの。 「何か変わったことなかったか」 て聞いだずも。 「何もなかったな」ていうずも。 「ほだらええし。明日、いまいっぺん、その田の草取ってみねが」 て、こういうたど。若衆ぁ、 「異(い)なこという。おらだ真中取んねがったこと悟らっだがな」 と思って、 「今日は仕方ないから、まず真中まで取っか」 て、みんなで取って行ったど。そしたら五升樽一本立ててあったど。そうしてこんどは田の草取って、夕方、それ持って来たど。 「いや、旦那さま、申しわけなかった。実は真中の田の草とんねでだであった。今日は取ったば、五升樽あった」 て、そういうど。 「それ、お前だ、真中まで丁寧にとった御褒美に、おれ置いたなだから、お前だ、今夜飲め」 て、そう言わっで、若衆喜んで飲む。それから若衆も改心して、仕事は粗末にしないようになって、ますます大百姓になってあったけど。むかしとーびん。 |
>>川崎みさをさんの昔話 目次へ |