64 八十尋

 むかしあったけど。
 じんつぁとばんちゃいだども、子ども持たねがったど。そして何とかして子ども欲しいと思って、鎮守さまさ日参したど。
「どうか、ええ息子さずけて呉(く)ろ」
て。そしてばんちゃ産んでしまったども、肝心なもの喰付いでいねがったど。
「じさま、こりゃ困ったごんだ。これ無いでは仕様ない」
 て思って、また鎮守さまお詣りに行って、
「大抵、八寸ぐらいにええがんべ」
 て、こう思ったども、間違って、
「八十尋あるように。八十尋あるように」
 て拝んだど。そうしたばぐんぐん伸びて、長くて長くて仕様ないほど長くなってしまったど。んだども、仕方ないもんだから、直してくろなて頼まんねしと思って育てたど。そして大きくなったども、そんなものさ嫁の来とうもない。
「仕方ないがら、お前、世の中広いから、歩ってみろ。もしや嫁もあっかもしんねぇから」
 て、出したど。そしてその辺で藁で編んだな「カツコダワラ」さ、八十尋つめ込んで、肩さかつねで出かけたど。そうしてずっと旅して行くども、なかなかそんな嫁はないくて、大阪の方まで行ったど。そして行って、ええお天気の日に、松の木の下さ昼休みしったど。そしてカツコダワラを脇さおいで、昼休みしった。そのうちに温かくポカポカちゅうもんだかが、カツコダワラからひょろひょろと出はってきて、そうして松の木、ひょろひょろと昇って行ったど。そして天狗さまの鼻見つけで、似たようなもんだと思って、プクッと突ついだど。天狗さま、たまげてしまって、
「おれより長い鼻、いるもんだ」
 て思って、その拍子に打出の小槌落して逃げて行ったど。天狗さまは、そうすっど下さ落ちできたなで、目覚めだって。そうしてこんど見たば、見なれぬ小槌あるし、
「これは昔から聞いてる打出の小槌だに、相違ない」
 て、そう思って、
「よしよし、一つ試してみんべ」
「この長いもの、短かくなっかなんだか」
 て、そして、丁度ええくらいの寸法言ったど。そうしたら丁度よくなったど。
「いや、これはええがった。これだとお嫁さんもあんべ。んだども、まずおれは何も知しゃねもんだから、勉強しなね」
 て、そう思って、大阪の鴻池という家さ行って、番頭に働かせてもらったど。そうしてこんど、一生懸命かげひなたなく働くもんだからはぁ、主人の気に入らっで、そしてそこの娘の聟になってもらいたいと、こう言わっで、大阪の鴻池といえば、音に聞えた旦那衆であったって。そしてそこの聟になって、こんど、
「実はこういう親、国元にいたから、」
 て、話して、呼び寄せて親孝行してあったど。むかしとーびん。


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