60 歌くらべ ― 和尚と小僧 ―

 むかし、加賀の法輪寺というお寺あったど。そこの小僧さんに太郎と次郎と三郎というの居て、太郎というのは武士の子で、次郎は百姓の子、三郎は和尚の子であったど。
 ある日、おりんという女がボタモチ売りに来た。
「お前だ、〝りん〟という字のついた歌詠めば、ボタモチ買ってやる」
 ていうた。そしたば、武士の子は、
  りんりんと、小反(ぞ)りにそった小薙刀
      ひとふり振れば 敵はちりりん
 て詠んだ。
「ほう上手出た。なに餅ええ」
「あずき餅、ええ」て、買ってもらった。
「今度、お前の番だ」て、百姓の子に言った。
  りんりんと、小反りにそった春いわし
      なめして食ったら 腹がとちりん
 て詠んだ。
「おお、よく出来た。お前は何ええ」
「きなこ餅、ええ」て。
 こんど最後の和尚さんの子の番になった。
   りんりんと リンゴの花を手に持ちて
      詣るお寺は 加賀の法輪寺
 て、こう詠んだ。
「上手だ。お前は何ええ」
「ごま餅、ええ」
 て、買ってもらって食った。むかしとーびん。
「集成 500 りんの歌」
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