53 糸合図

 むかしあったけど。
 南の山のお嫁さんもらう年頃の兄いだっけど。ある人の仲人で遠(と)っかいどっから、そしてとてもいい家から、兄にはもったいないほどのお嫁さんもらったけど。そして里帰りに行くことになったじもの。そしてはぁ、二人で出かけたど。途中まで行くと、嫁っこが、
「兄んにゃ、兄んにゃ、おら家さ行ったら、あまりやたらに喋んなよ」
 ていって、チンチンに糸縄つけて、
「おれが脇にいて、いい頃に引っぱっから、そん時、〈さようでござる〉と、こう言うように」
 て、教えて連れて行ったごんだど。そしてまず、はじめはうまく挨拶もできたので、向うのおとうさんも、少しうすのろと聞いっだが、これぐらいなら、まずよがんべと思ってだど。そのうちに嫁っこがオシッコ出たくなり、ちょいと立って、まず糸縄を下駄に結つけて行ったんだど。そこの家に犬っこ飼ってであったじもの。その犬っこがそれを見つけで、じゃれだど。そうすっど兄は、
「さようでござり申す」
 というども、何度も何度も引張られるので、しまいには、切なくなって、
「さようの頭がもげそうでござる。さようの頭がもげそうでござる」
 といいながら、何度も何度も頭をさげていたところに、嫁っこはもどって、たまげる、親父は怒って、せっかくもらった嫁は取っぱがさっで、しおしおとわが家に帰って行ったけど。むかしとーびん。


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