52 数の子 ― 南山のおじ ―

 むかしあったけど。
 南の山のおじぁ、正月礼に嫁の家さ行って、数の子出さっだ。あんまりうまいがら、手づかみして数の子食ったど。そうして小便たれ行って、さわったもんだから、かゆくなったずもの。そしたば、かかに、
「かゆくなって困ったもんだから、洗わねねなぁ」
 て言わっだど。それで洗ってうるうちに、ふやけてしまって、取れなくなってしまったずも。
「これは困ったことになった。取れなくなった」
 朝げになっても取れねごんだずも。仕方ないから、ヤカンぶら下げて起きてきたど。そして飯ごちそうになって後、親父、
「あまり退屈だから、将棋さしでもすっか、兄んにゃ」
 ていうたど。そして、「あまりええ」て、さしてるうちに、何気なしに、
   センキカエッポは抜けねどせ
 て、さしたど。思わずな。そうすっど、じさま、
   うらの清水で冷やせどせ
 ていうたと、おしうど親父はさしたど。
「ははぁ、それはとれっか」と、そう思って、
「おどっつぁま、おどっつぁま、おれ、ちょっと用達して来っから」
 そういうて、裏の方さ廻って行ってみたば、冷(ひや)っこい清水あったど。そさ、まず、のだばって冷したど。そしたば冷っこいもんだから、ちぢんでしまって取れであったど。んだから、そんな不精はするもんでないど。むかしとーびん。
「集成 357 塩辛と薬鑵」
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