46 化狸と和尚

 むかしあったけど。
 むかし、ここのお寺で、くる和尚さまもくる和尚さまも、みんな何か化物に食っで、いねぐなってしまうごんだど。あるとき、えらい旅僧が来て、
「そんでは、おれはこの寺さ、そなわってみる」
 て、こういうたど。村の年寄りに。そしたら、
「いやいや、どんな和尚さま来ても、みんな食っでしまって、駄目ななだから、お前もそんなことしない方がええ」
 て、こういうたど。
「ほだども、いやいや、おれば直(なお)らせでくろ」
 て、そしてその寺さ入ったど。そして夜になったど。一生懸命で火焚いで、こんな石を焙っておいだど。そしたらこんど、「今晩は」てきたど。旅僧がな。
「和尚さま、和尚さま。一晩げ泊めて呉れねぇか」
「ああ、ええでどこでない。同業者だもの、どうか泊まれ、入ってだか、何も蒲団もないから、おれも来たばりで腹あぶりして、二人で夜明かすぜ」
 ていうたど。そうして泊ったど。まず夕飯の分、すごして二人で腹焙りしたど。そうしてその寺さ泊めてもらった和尚さま、ねむかけはじめだど。そうすっど、利口な旅僧は火箸さ手かけて、ねむかけすっど、こう頭下げっど、泊めてもらった和尚さま、カエッポひろげて出したど。こう頭下げっどグググッと包(くる)んでしまうど、そうしてこんど、
「ああ、やっぱり、おれ思うとおりなだな」
 て、こう思って、和尚さま、こんど深くねぶったようにして頭下げっだど。そうすっど、こうひろげて和尚さまかぶせそうにしたど。そんで、来た和尚さま見えねぇほどひろげてしまったど。そん時、火箸で焼いっだ石、ひょいとその中さ入っだど。そうすっどギャーッというもんで、戸開けて逃げて行ってしまったど。そして次の朝げになったば、村の衆、
「和尚さま、和尚さま、いたが」て来たど。
「いたいた」「何にもなかったが」て、いうて来たど。
「本当の和尚さまだか、化物でないが」
 ていうずもの。
「いやいや、本当の和尚さまだから。来たっけ、昨夜(ゆんべ)、化物、実はこれこれで逃げて行ったから、裏のあたりに孔あんべから、そさみんなで行ってみんべ」て。
「まず、村にありったけ、南蛮(唐辛子)あつめてこい」
 て、そういうたど。そして村の人は南蛮干しったの、ありだけ持って来たど。そして裏の沢の方さ行って探してみたば、穴あったど。その、この入口さ火焚いて、その南蛮をいぶしたど。そしてこっちがら一生懸命でその孔さ扇ぎ込んだど。そしたば「うん、うん」て、音してあったど。これぁ切ないもんだから、こんどカエッポさは焼け石入れられる。南蛮いぶしはされるし、して、切なくて切なくて這い出はってきたど。そこをみんなで叩き殺さっだど。それからそこのお寺さ、何にも化物はぁ、現われなくて、その和尚さまはえらい和尚さまですごしてあったけど。むかしとーびん。
「集成 266 狸の八畳敷」
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