45 さとりのお化け

 むかしあったけど。
 炭焼きおやじ、夜、山で退屈なもんだし、このような風に、ただいてももったいないと思って『カンジキ曲げ』しったど。そして一生懸命曲げでだば、旅人ぁ来たずもな。「こんばんは」て来たなだ。
「こんな山の中さな、何だべまず。何かの化けたものには相違ないな」
 と、こう思ったど。
「ほう、なんだ親父、おれば何かに化げだんだと思ったべ」
 と、こういうずもの。
「いよいよもって、これは化けたもんだ」
 そう思ったど。
「いや、やっぱり、いよいよもって、化けもんだと思ったな」
 こういうずものな。そのうちに親父も恐っかなくなって来たもんだから、ちと太めのカンジキ曲げっだな、手はずして、ピンと跳ねだずも。そうすっど、その旅人どこさ、太い方、とんで行って、その鼻柱のあたりビンとはじいてしまったど。そうしたば、キャーッと逃げて行ったど、鼻血たらしたらし…。まぁそうする気でないぐしたもんだから、悟れねぇがったそうだ。そうして夜明けてがら、
「やれやれ、ええがった」
 と思って、血たらした後辿ってみたど。そしたば雪の上さポタポタとた垂ってた血辿って行ってみたら、穴あったど。そして村の衆たのんで行って掘ってみたば、古ぼけた狢(むじな)であったど。そうする気でなくしたもんだから、ふいに急所やらっで、うなっていたどこ、捕らっでしまったけど。むかしとーびん。
「集成 265 山姥と桶屋」
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