37 金の斧銀の斧

 むかしあったけど。
 向うの山中のどこに、木伐りを専門にするじさまいでやったど。そしてこんど、ある日、川端の大きな木伐っているうちに誤って、斧を川の中さ、ドブンと落してしまったど。そして正直なええじさまであった。
「いたましいことした。あれなければ、仕事もできないし」
 て、こう一人言いうていたけど、そうしたら川の中から年いったおじいさんが出てきて、
「じさ、じさ、いま落した斧拾ってきてくれるから」
 て、そういうたど。そして金の斧をもってきてくれだど。そして、
「お前落したのは、これだか」
 て、こういうたど。
「いや、そんな立派な斧でない」
 て、そういうたど。
「ほんでは、また別なな探してくるからな」
 て、入っていって、こんどは銀の斧持ってきたど。
「お前の落したのは、そんではこれだか」
「いやいや、そんな立派なもんでない。鉄で作った斧だ」
 て、こういうたど。そしたらこんど、またもぐって行って、本当に落した斧拾ってきて、呉っだど。そしてそれと同時に、金の斧も持ってきて、
「お前は正直ものだから、これも呉れでやる」
 て、その斧もらって来たど。そしてそれを聞いで、慾のふかいじいさんが、
「よし、おれも行って、金の斧もらって来るべ」
 て、こう思って行って、斧をわざとドボンと投げたど。そしたらまた同じような白髭のじいさんが現われて、
「ああ、お前の斧拾ってきてやる」
 て、こういうたど。そしてこんど拾って来たのが、金の斧、やっぱり持ってきて、これだがて聞いたど。「ああ、これだか」「それだ」て、そう言うたど。そしたら、
「この嘘つきはぁ、落した斧はそっちの方だ」
 て、わざと投げた斧の方与えらっで、金の斧はもらいぱぐったど。わるい心がけではわるいもだど。むかしとーびん。
「集成 226A 黄金の斧」
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