29 こぶとりむかしあったけど。右の頬っぺたにこぶのあるじいさんと、左の頬っぺたにこぶのあるじいさんと二人いでやったど。 右の頬っぺたにこぶのあるじいさんが、山に木伐りに行って、一生懸命で伐ってるうちに、雨降ってきたど。そしてこんど木の洞穴に入って雨宿りしているうちに、夕方なんだから、眠ってしまったど。そしてひょっと目覚めたら、目の前があまりににぎやかなもんだから、何だと思って見たら、鬼共が集まって、一生懸命で酒盛りはじめたど。そのうちには飲めや唄えや踊れの、鬼共の宴になったって。もともと踊りの好きなじいさんなもんだから、ついふらふらと出でって、踊りに加わって踊ったって。 「いや、これは上手なおじいさんだ。あした明日の晩げも来いよ」 て、そう言わっだって。 「いや、明日、とても来らんね」 「来い、来るか来ないか、はっきり返事しろ」 ていうども、じさま、 「やれ、分(わ)からね」 て、こういうたど。そんでも来るようにと、 「大事なもの、置いて行け。お前の大事なものは何だ」 「こぶだ。何よりも大事なものだ」 て、こういうた。 「そんでは、それ置いて行げ」 て、ぽつんと取らっでしまったど。そしてはぁ、じさま嬉しくて、うれしくて家さ帰ったど。そしてばさまに、 「ばさばさ、山さ行って、昨夜(ゆんべな)泊ったども、こういうあんばいで、洞穴にねてだば、鬼共踊って、そさ嵌って踊ったば、また明日の晩げ来いよって、こぶとらっで来た。ほんでええ男になってきた」 て教えだって。そうすっど、隣のばさまきていで、 「そんでは、おら家(え)のじんつぁもやって、とってもらわなね」 こういうて、隣のじさまも行ったど。そしてはぁ、その洞穴さ入って待ちてだど。そしたら鬼共また集まって歌い出したど。そして踊りも始まったど。だが、そのおじいさん、あまり上手でないがったど。 「いや、これはにせ者だから、お前の頬っぺたさは、このこぶ喰付けてやる」 て、ぺたんと、ない方さ喰付けらっで、二つ下げて泣き泣き帰ってあったど。自分でできないような人の真似するもんでないど。むかしとーびん。 |
「集成 194 瘤取爺」 |
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