26 花咲じじい

 むかしあったけど。
 草すず、豆すずというじさまがいでやったど。草すずというのは意地わるじいさんであったど。それから豆すずというじいさんはええじいさんで、川さ簗(やな)かけたど。そして頭(かしら)さ豆すずじいさんかけたら、大変魚とれるど。そしたら草すず、
「そんでは、おれも頭さ掛けんべ」
 て、また頭さ掛けたど。そしたば、くいごこ引っかかったど。
「こいつけなもの引っかかって、魚でも引かがんねで」
 て、投げてやったど、尻さ。そうすっど、豆すずじさま簗さ引っかかったど。そうして豆すずじさは、
「今朝は、なんぼ引っかかっていたかな、魚」
 て行ってみたば、ちっちゃいくいごこ引っかかっていたずも。
「いや、めんごいこと、これ持って行って、飾っておくべ」
 て思って、家さ持ってきて、大事にわが子のように育てておいだど。そうしたば、だんだん大きくなってはぁ、じさまが山さ木伐りに行くていえば、
   山刀(なた) つけろ くぇんくぇん
   ミノ つけろ くぇんくぇん
 ていうど。かわいがっていたば、ある日、
   鍬 つけろ くぇんくぇん
   かます つけろ くぇんくぇん
 そういうずもの。そして鍬、背中さつけたらば、
   じんつぁものれ くぇんくぇん
 そうしてのったれば、裏の畑さつれて行ったど。そして畑の隅(すま)こさ行ったば、
   ここ掘れ くぇんくぇん
 ていう。それからじさま一生懸命になって掘ってみたば、大判小判ざぐざぐと出てきたど。そしてはぁ、かますにどっさり詰めて、そうして家さ来てやったど。そしてその大判小判出して、ばさまに語って聞かせっだどこさ、隣の草すずじさ来たずも。
「おや、豆すず、豆すず、こらほどの金、なじょにして儲けた」
「いや、おらえの犬は、これこれで畑の隅こ掘ったば、こがえに出てきた」
 て、そう言うて教えたど。
「おれにも貸してくんねぇか」
「ああ、ええどこでない、持って行け」
 そして借りで行ったども、つけろと言わねずもの。んだども、無理矢理鍬にかますにつけではぁ、行きたくもないなぁ、引っぱって行ったど。そして掘れともいわねな掘ってみたど。そうしたば、牛の糞だの馬の糞ばり出てきてあったど。お金出て来ねずも。
「こんな犬はこうして呉れる」
 て、鍬で叩いて殺してしまったど。そしてはぁ、そこさ犬ば埋めて、掘ったのさ、しるしに松の木一本植えてきたど。そしてきて、
「豆すず、豆すず、あんな犬は嘘つき犬で、とても駄目だから、殺して、おれ埋めてきた」
「いや、むごさいこと、さっだもんだなぁ」
 ていうたば、
「しるしに松の木植えてきたから、行ってみろ」
 て、こういわっだって。そうして行ってみたら、見てるうちにその木がぐんぐん、ぐんぐん大きくなったど。そうして大きくなったもんだから、じさまは伐ってきて、挽臼(するす)作ったど。そしてばさまと二人で、
   松の木ズルスの コンズルス
   よう噛め よう噛め
 て、そういうて挽いだど。そうしたば、じんつぁの前さは大判、ばんちゃの前さは小判も出て来たど。ざぐらざぐらと挽くたびに…。そうすっどまた隣の草すずじさま来て、見て見つけでしまったど。そうして、
「豆すず、豆すず、そんなええ挽臼だら、おれにも貸してくろ」
 て、また借りて行ったど。そして挽いだど、ばんつぁ。そうしたば、ばんつぁの前さは牛の糞、じんつぁの前さは馬の糞しか出ないずも。こんどまた怒って、それぶち割ってしまって、竃さくべてしまったど。そうして豆すずじさま、何日経っても返しにこねもんだから、
「おれの挽臼返してくろ」
 て行ったど。そしたば、
「あんな挽臼あるもんでない。出るものは糞ばりだ。ほだからはぁ、焚いてしまった」
 て、こういうたど。それから、
「困ったことさっだもんだな」
「そこに灰あっから持って行げ」
 て、こういわっだ。それから灰、ざる笊さ入っで、まず貰ってきて、軒場さ置いたど。そのうちに風吹いてきて、向い山さとんで入ったずも。そしたばまだ桜の花も咲かないうちに、花咲いたど。その木さ。
「いや、これは面白い灰だ、そのうちに殿さまここ通りかがっから、一つ花咲かせてみせんべ」
 て、その豆すずじさま、笊さ入った灰持って、殿さまの通る日待ちでいだど、木さのぼって。そうすっど殿さまは遠くから「下に、下に」と来たど。そうして、
「そこにいるじじい、何じじいだ」
 て、先払いがいうたど。
「花咲かじじいだ。枯木に花を咲かせる」
 て、こういうたど。
「それでは、一つ咲かせてみよ」
 て、殿さまが言うたど。そうすっど、
   チチンプンプン 五葉の松
 て、その灰をふったど。そうしたば、ぱあっと咲いたど。いや、殿さま扇ひらいて、「これはみごど、みごど」て、お賞めになって、宝物どっさりもらって来たど。そうして家さ来て、ばさまに見せたば、また草すずじじ来て、
「こんなにたくさんの宝、なじょしてもうけた」
「いや、殿さまに、お前どこから持ってきた灰で花咲かせて、もらってきた」
 て、こういうたど。
「よし、そんでは帰りに、おれもしてみんべ」
 そして残った灰かき集めて、笊に入れて、登って待ってだど。と、殿さま、帰りに、「下に、下に」て来たど。それから先払い、また見つけて、
「そこにいるじじい、何じじいだ」
「花咲かじじいだ」
「それでは一つ咲かせてみよ」
 ていうたど。じさまはいう言葉も知(し)しゃねもんだから、ただ無性に投げだど。そしたばさっぱり花咲かねで、殿さま、咲くかと思って上見た目さ入ってしまったど。
「いや、これは、にせ者だ、早くしばれ」
 ていわっではぁ、そのじさま縛らっでしまったど。んだから、なんぼ人はええごんでも、人の真似はするもんでないど。むかしとーびん。
「集成 190 花咲爺」
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