16 一寸法師

 むかしあったけど。
 おじいさんとおばあさんいたけど。子ども持たなくて、まず、鎮守さまさ願かけして、
「子ども一人、ちっちゃな子ども一人欲しいもんだ」
 て、こう願かけしたずもの。そして生れたば、ほんにちっちゃいな生れてしまったずも。
「仕方ないから、ばぁ、一寸法師だ、こんなものは、欲しい欲しい」
 てばり言ってだど。そしたればやっぱり十五、六歳にもなっても、ちっちゃいもんでだずも。
「ほだども、じんつぁ、ばんつぁ、おれ京の方さ行ってみたいと思う。そしたばおれみたいな者でも、何とかなる知んねぇから」
 て、そしてこんど。
「お椀の舟に、箸の櫂で十分だ」
 て、そして出かけたごんだど。京さ。そして京都さついて、そして公家さまの玄関さ行ったど。そういうどこさ勤めたら何か勉強もされんべと思って。そして公家さまの方さ行くべと思ったら、雨降って来たごんだずも。そしてこんど唐傘さして立ってる人いた。その足駄の下さ入っていたごんだど。そしてこんど「もしもし」て、こう言うたど。
「何だか声するようだ」
 と思って、その人見っども、人いねず。そしたらこんど、
「誰だ、おれを呼ばるな」
 て聞いたど。
「足駄の下からだ」
 こう言うずも。それから、踏んづけねようにそおっと足ずらしてみたらば、ちっちゃな子ども、なるほど足駄の下にいてやったど。
「おやおや、本当だ。お前はどこから来た」
 ていうたば、
「この川上から来たもんだ」て。
「んだども、体小さいども、京に行ったら何か勉強でるかと思って来たども、お公家さまの屋敷さでも勤めて勉強したいと思うども、お公家の屋敷教えてもらいたい」
 て、こういうたど。そしたら、
「おれも公家だ」て。
「ほだら、おら家の屋敷さ勤めるか」
 て、こういうたど。
「勤めるというより、お前、こんな小さいもんでは、姫の遊び相手だごで」
 て、こういうたど。そして連れて帰ったど。そしてお姫さまに、何か勉強教えてやれて、お姫さまの遊び相手になっていたど。そしていたら、
「今日は、まず、桜見につれて行くから…」
 て、そして京の清水さつれて行くのに、タモトさ入れて行ったど。そして見に行ったところが、人も大勢いるな、こんど鬼が現われたごんだずもの。そしてこんど、お姫さまあんまり美しいもんだから、さらう気になったど。そうすっど、法師がタモトから飛び出してその鬼さ針の刀刺してであったど。それで鬼の目さジョキジョキと突いたずもの。登って行って。鬼もこうはらうべと思うども、小さいもんだから、どこにいたも分んねぇずも。鼻の孔を突っついたり、目を突っついたりするもんだから、お姫さまは放す。大事な打出の小槌まではぁ、落して逃げて行ってしまったど、鬼。そしてお姫さま助かって、その打出の小槌拾って法師、
「これ、打出の小槌って、何でも思うことかなうそうだから、お前を大きな人になられっか、一つ、振ってみるか」
 て、そうしてこんど振った。
「一寸法師、大きくなれ」て。ズンと大きくなったずもの。
「もう少し大きくなれ」
 ズンと大きくなったど。そして丁度ええ若衆になったずうもんだ。そしてこんどはぁ、お公家さまのお屋敷さ帰ったど。そしていろいろな勉強教えてもらって利巧者だから、そのお姫さまのお聟さんになってやったけど。むかしとーびん。
「集成 136A 一寸法師」
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