12 猿聟入

 むかしあったけど。
 じんつぁとばんちゃいだっけど。じんつぁは夏の暑い日に、火野さ豆の草取りに行ったど。うーんと草生えでで、じんつぁ取り立てらんねほど生えっだど。
「いやぁ、暑い暑い、この豆の草、ほに、取ってくれる人あんだら、娘三人持った、どれが一人呉れっどもな」
 て、こう言うたど。したば、ガサガサ、ガサガサ出てきたど。山のおんつぁ。
「じさ、じさ、何語った」
「何も語んね」
「語んねなていうど、こちょばすぞ」
「いや、今、豆の草とってくれる人あっど、娘三人持った。誰か一人呉れるて、そう言うた」
 ていうど。
「おれ、取ってくれっから、おれに呉ろ」
 猿なもんだから、ひゅうひゅうひゅうと取って、一時(いっとき)に終(おや)してしまったど。
「じさ、じさ、もらいに行んから、呉ろよ」
 じさも気重いども、家さ来て、まず飯食って寝たど。次の朝げになって、
「何としたらええがんべ、まず」
 と思ってはぁ、起きらんねずも。したら姉娘、
「じんつぁ、じんつぁ、飯出たから、あがれ」
 て、起こしに行ったずも。
「御飯食うもええども、にさ、まず、おれ言うこと聞いて呉んねが」
「なじょなごっだが言うてみろ」
 したら、
「実は、昨日(きんな)、豆の草取りに行って、あまり暑かったもんだから、この草取ってくれる人に、娘一人くれるて約束した。一人言語ったらば、猿出はってきて、草取ってくっで、そさ呉んねねごどになったから、行って呉んねが」
「何語っていんべ、まず。猿のおかたになてなられっか」
 がちゃっと戸閉(た)てて行ったど。
「はて、困ったもんだなぁ」
 と思っていたば、二番目の娘行って、また起すど。ほうしてじんつぁ、またそういう風に頼んだど。
「何、もんぼれ語っている。このじさま」
 て、枕蹴っとばして行ってしまったど。そして三番目んな、お花と名付いであったど。それ起しに行って、じさはぁ、また語ったど。
「猿の嫁になってくんねぇか」
 て。ほしたら、
「ええどこでねぇから、起きろ」
 ていうずも。ほして起きてまず飯(まま)食ったど。ほうしたば、こんど猿ぁ新しい手拭いなど、頬かぶりして、もらいに来たど。して、もらわっで行ったずもの。
 そして次の年の節句になったど。
「節句礼に行きたい」
 て、餅搗いたど。そして、「どの重箱、ええ」なて言うずもの。
「いやいや、おら家(え)のじんつぁは重箱くさいて、重箱の餅は食ねし」
 なていうた。
「んでは、朴の葉だが」
「朴の葉くさいて食ねし」なて。
「ほんでは、なじょにしたらええか、臼まま背負って行んか」
 ていうずも。
「そしてもらえば、一番ええなぁ」
 て。猿、臼背負って来たど。川端通りかかったらなんぼかきれいな桜咲いっだど。
「いや、きれいな桜だごと。おらえのじんつぁ好きなだどもなぁ」
 て、こう言うたど。
「ほんじゃ、おれ、折(おしょ)っから」
 て、どっこいしょなて、臼降ろす気になったど。
「いやいや、土くさいって、じんつぁ食ねがら、降ろさねでくろ」
 ていうた。
「んでは、背負って登っか」
 背負って登って行って、「この枝ええか」て、手伸ばしたら、
「もうちっと上(うえ)んな、格好ええようだな」
「んでは、この枝か」
「いや、その上んな、ええようだな」
 て、こう言うたど。そしてそさ手伸ばすどさ、裏(先)の方になったもんだから、ポキンと折れで、臼背負ったまんま、川さガボンと落ちだど。ほうして流れ流れ、
  猿沢にながるる命おしくはなけれども
   あとにのこりし お花 こいしや
 て、そういって流っで行ったけど。そしてお花、家さきて、じんつぁに教えたば、
「ほんでは、ここの家さ、親孝行だから、お前にゆずるぜえ」
 て、家ゆずってもらったけど。むかしとーびん。
「集成 103 猿聟入」
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