11 蛇聟むかしあったけど。じんつぁとばんちゃいで、三人娘もっていでやったど。そしてこの人は裏田に千刈、前田に千刈、田んぼ持ってだど。そしてその年はなんと旱魃で裏田千刈に水掛ければ前田千刈干(ひ)ってしまう。前田千刈に水掛ければ裏田千刈干ってしまう。そしてその水の出るとこの沼さ行ってみたら、沼の水も少なくなってだど。 「はてはて、裏田千刈、前田千刈さ水かけてくれる人あれば、娘三人持ってだが、どれか一人呉れるが」 て、一人言(ごと)語ったど。そしたら、きれいな男が、その沼がボーッと波立つと出てきた。そして、 「じんつぁ、じんつぁ、今の話本当だか。おれ掛けてくれっから、おれに呉れるか」 て、こう言うたど。そしてこんど、家さ来たども、そんな一度に掛けられるもんでないと、簡単に約束してきたど。そしたらその晩、大雨降って、前田も千刈、裏田も千刈、みんなダンブリ水掛ってしまったど。 次の朝げ、じんつぁ困って寝てて起きねど。姉娘行って、 「あの、じんつぁ、じんつぁ、飯出たから起きろ」 ていうたば、 「いや、実は飯も食(く)だくないようだ。昨日(きんな)、おれぁ沼のとこさ行ってこういうこと言ったば、これこれの男出てきて、約束したなな、それがその約束どおり雨降って、裏田も前田も、ダンブリしてしまった。そんで嫁に、お前だどれか一人呉んなね。行って呉れっか」 て、こう言うたど。 「そんな、わけの分んね者さ、嫁(ゆ)かれるもんでない。なんぼじんつぁでも…」 て、こんど荒々しく出て行ったど。二番目の娘来て、 「じんつぁ、じんつぁ。飯(まま)だから起きろ」 そしてまた、そのとおりに言ったども、その娘も、 「そんな馬鹿などこさ行かんね」 そう言うて出て行ったど。三人目の娘きて、また言うたど。そしてその通りにじんつぁ言うたば、 「ええどこでない、じんつぁ。ほだらおれの頼みも聞いて呉ろ。おれにひょうたん千と、針千本買って呉れれば、嫁に行くから、買って呉ろ」 て、そういうたど。そうして、じんつぁ、 「そんなことはぁ、あんまりええぜぇ」 て、さっそく小国の町さ行って買って来たど。何すっど思ったら、そのひょうたんさ一本一本に娘はみな針入っだど。そうして、 「これを、おれの嫁入りの葛篭(つづら)に入れて下さい」 て、そして入れてもらって待ちていたど。約束の日、そうしたば、ええ男ぁ来たど。迎えにな。そして、 「おれと一緒に歩(あ)えべよ」 て、そう言わっで行ったど。そしてついてて行ったら沼であったど。 「ここが、おれの家だから入れ」 て言わったど。 「入るは、あまりええども、これ身上だから、葛篭、これも一緒に入って行くから、身上沈めてもらうまで入らんね」 て、そしてその葛篭入れたら、蓋とれて、そのひょうたんみな浮きたど。そうすっど、その男、一生懸命でそっち沈め、あっち沈めすっども、ひょこん出はり、ひょこんと出はりすっずもの。そうして夢中になっているうちに、自分の化けたことも忘っでしまって、大きな大蛇になってしまったど。そうしてバダン、バダンと沈めようとしているうちに針出はって、全身さ刺さってしまったど。そうしてはぁ、苦しんで苦しんで死んでしまったど。娘は、 「ああ、これでよかった。そうしたら田も干されることないし…」 て思って、家さ帰ってきて、じさまにその話したど。「お前は姉妹中で一番親孝行だから、この身上はみなお前に呉れっぞ」て、そして後とり娘にしてあったけど。むかしとーびん。 |
「集成 101B 蛇聟入」 |
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