24 時田の変り松

 時田にある弘法さまの松は、枝一本だけが二葉松の中で五葉松なんだ。
 そこに、むかし、貧乏な家があったど。弘法大師が夏、かんかんと日照りなと き休んだど。ところが水飲みだくて、非常にのど乾いで、
「ばぁさん、一つ水飲ませてもらいたい」
 ところが、
「水は干魃で、とても川もこの通りなんだし、ちょっと待ってで呉ろ」
 ということ言って、ばさま水汲みに行って、二時間もかかってやっと汲んで来 て、弘法大師に飲ませたど。
「どこまで行って汲んできたごんだ」
 と聞いたら、
「こういうどこに、水の出っどこあるもんだから、おれはそこまで行って汲んで きた」
 そこは、長橋のオカマというところだったど。
「いや、そがな不便なことさせておかんね」
 て言うことで、その松さ袈裟かけていた枝が変ったもんだし、その家の傍さ杖 を立てたら、そこから水が出たど。そいつが弘法水だど。ところがそいつが非常 にええ水で、今でなんぼ干魃だって、出なくなったじゃないことになっているど。
>>かっぱの硯 目次へ